お昼ごはん
「近いとはいえ、わざわざ家に戻るんですね。」
隣を歩いているアラクレイに、聞いてみます。
晴れた日差しの中、風穴からの道をのんびり歩いています。
畑があり、木立の間からは鳥の声が聞こえて、のどかな風景です。
「仕事とは言っても、穴倉の中で長いこと過ごすのは気が滅入ってくるからな。それに、昼からの仕事は、どちらにしろ外だ。」
「あ、そうなんですか。風穴の中でずっと作業をするんだと思ってました。」
「忙しいときは、そうなるけどな。荷車いっぱいの魔道具が届いたときなんかは、朝から晩まで穴倉の中さ。兎にも角にもさっさと穴の中に運び込んじまわないと、泥棒だの盗賊だのを呼び寄せちまうからな。」
イーオットも並んで歩いている。
「それに、風穴の中では魔力が回復しないんですよ。アラクレイはともかく、私たちがしている作業は魔力を使うので、こまめに地上に上がる必要があるんです。
それに、ここは孤立した場所なので、食べ物もある程度は自給自足しなければならないんですよ。」
「えと、さっきも盗賊のお話がありましたけど、管理人って数人だけですよね。守ってるものの価値からしたら、大勢で攻められたときはどうするんですか? あの家も、留守番もいないんですよね。あ、ムクチウスさんは風穴にいませんでしたね。番人役ですか?」
スミと一緒に前を歩いていたミステレンが、少し振り返って、肩ごしに話してきます。
「その時が来れば分かるよ。風穴を造った術者達が、どれ程の者だったか。今の僕達は、警備をしているわけじゃなくて、お世話をしているだけだってことも。」
「夢魔の力ってことですか。」
「そういうこった。夢魔のことは、」
アラクレイがチラリとスミの方に目をやります。
「このお嬢様が、おいおい説明してくれるだろうよ。
お前さんを、ここで働くにふさわしいと認めてくだされば、だがな。」
スミは、聞こえているだろうに、振り向きもしませんでした。
お昼ごはんは、野菜を具にしたパスタでした。
塩漬け肉のかけらがちょっと入っているだけですが、シンプルに見えてなかなか美味しいです。
スパイスも油も、貴族並みのものを使っているということですね。
「これ、美味しいですね! こんなのを毎日食べているんですか?」
今日の昼の当番はアラクレイでした。
いかにも男の料理という感じで、巨大な鍋に大量の麺をゆでていました。
いまも、アラクレイの皿の上には山盛の麺が乗っていますが、凄い勢いで減っていっています。
「おう。コーダ、お前も料理は出来るか? ここはへんぴなと所だが、俺達は食い物だけは妥協する気はねえんだ。」
おっと。なんと答えておくか、難しいところが来ましたね。