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イーオットのお茶会

管理棟の裏手に回ると、美しい顔立ちの男が、たたずんでいた。

白い長衣に、若草色の前掛けをしている。


「ようこそ、我がお茶会へ。

近頃では参加者が少なかったので、少々寂しい思いをしていました。

お客様は、歓迎しますよ。」


丁寧な礼をもって、庭園の中のテーブルとイスに案内していく。


「さ、さ、そちらにどうぞ。お茶の葉に、好みはありますか?」


ミツルギは恐れげもなく、シュッツコイは多少の警戒をしながら後に従う。


「うむ。渋くなく、甘めにしていただけるとありがたい。」


腰かけたミツルギが、遠慮なく告げると、イーオットと名乗った男は執事のような礼をして、悪戯っぽく笑って見せた。


「かしこまりました、お嬢様。そちらの、剣士様はいかがなさいますか。」


「俺は、適当なもので構わんが……。」


毒気を抜かれたような顔の、シュッツコイである。


「それでは、おすすめの茶葉をご用意いたしましょう。少々お待ちを。」


テーブルの脇にいつの間にか置かれていたワゴンに、銀のポットと白磁のティーセットが並んでいた。


「魔道具……でもないのか。」


シュッツコイは、無意識のうちに探知している。


「ふふ。私は、付与術が使えないもので。」


付与術の使えない精霊術師が帝国内に工房を構えるのは、珍しいことだ。

どのような術を使うのだろうか。


「そちらの工房が、私の居場所でしてね。」


シュッツコイの考えていることが読めるかのように、イーオットと名乗る術師は話してくる。

手で示す方を見ると、管理棟の一部が改装されて、さまざまな工作用具がしつらえてある。


「変わった素材を集めたり、細工を行ったり、まぁ、細々したことが、好きでしてね。」


ふと見ると、イーオットは、ワゴンの上のガラスの器で湯を沸かしている。

が、何かが燃えているわけではなく、青白い光の輪が、器の下に浮いている。


「ほう、精霊の火輪か。」


「おや、よくご存じで。」


「術としては見たことがある……が、こんなに小さくまとめるのは、初めて見た。

それに……まさか湯を沸かすのに使うとは、思いもしなかった。」


「ふふふ、戦いに精霊を持ち出すのは、少々気が乗らないものですから、こんな作業をさせているのですよ。工房の炉の中でも、よく働いてくれます。」


「ミツルギの力とは、ある意味、正反対かもしれんな。」


「どういう意味だ。」


「ひたすらに、小さく、小さく、精霊の力をまとめていく。力の無駄のない、精密な制御の賜物だ。」


「無駄で大雑把で、悪かったな。だが、私の実家では、そういった志向を持つ者は多かった。その術の凄さも、分かるぞ。」


「ありがとうございます。ところで、お嬢様。」


「ミツルギだ。今は魔剣士として仕事中だ。お嬢様は、やめていただきたい。」


「これは失礼。……今でなければ、よろしいので?」


「家に帰れば、そう呼ばれているからな。」


屈託のない、ミツルギであった。


「では、改めまして、ミツルギ様。そちらの魔剣に巻かれた布は、どちらで……?」


「これか。私の師匠の仲間である術師が、用意してくれたものだ。」


「ほう、お師匠の、仲間ですか。」


「ああ。だが、師匠とあがめているのはこちらの一方的な思いで、弟子を取るお方ではない。誤解を招くといけないので、名を出すことは控えておきたい。」


「なるほど。その術師の方も、名は伏せているのでしょうか?」


「うーむ。特に秘密にするよう言われていたわけではないが、ただ者ではない様子だったな。高度な魔道施設を管理し、たくさんの魔道具を身に付けて、精霊を何体も使役していた。にもかかわらず、帝都の貴族には、ほとんど知られていない。」


「ほう、ほう。優れた術師のようですね。ぜひとも、お会いしてみたいですね。」


「私のために、魔道具をいくつか仕立ててくれたが、私自身はどちらかといえば避けられるような気配で扱われていた。私が直接紹介するのは、少々気が引けるな。」


「そちらの、シュッツコイ様はご面識が?」


「残念ながら、私はその修業に同行しておらぬ。」


「どうしても、というのであれば、私の師匠に一度相談してみるが。」


「そうですね、お願いできれば、と。

実は、そちらの布に使われている素材は、他の地方では、かなり珍しいものでして。」



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