継承者の地位
帝室官房の会談室に、ミツルギとシュッツコイの姿があった。
彼らの上役の集合を待ちながら、状況を語っている。
「貴族の側には、魔道兵器という戦力を供出することへの抵抗は無いのか。」
「そこがまた、ややこしいところでな。
各家には、騎士団や軍がある。今までの軍事的な衝突への対応は、彼らが担って来たし、日常的な警備や領内の治安の維持などは、これからも彼らが担うことになる。
だが、普段は無力な誰かが、唐突に魔道兵器の継承者に選定されて、巨大な戦力となるなどという事態は、騎士団や軍という枠組みと、いかにも相性が悪い。」
「そうなのか?」
シュッツコイは、意地悪な笑顔で見返してくる。
「つい先だって、お前さんが実例を示したところではないか。
騎士団や軍人は、素人から生まれた英雄の露払いになることなど受け入れがたいし、継承者として選ばれた者も、無双の力を持ちながら騎士団や軍人の下に立つ理由など見出せんだろう。
領主直属とするか、それも難しければ剣客とするか。いずれにせよ、領内の序列は大混乱だ。」
……余計なお世話だ。
「弱い者が威張り散らす、それが序列だというなら、むしろ壊れてしまえと思うがな。」
「強さにも、いろいろな形がある。金剛石は比類なく硬いかもしれんが、加工できなければ用途は限られる。だが、加工できるのなら、何物にも負けないとは言えぬ。」
「それで、私にも、角を落として丸くなれと言いたいのか?」
「それができれば、お前さんも苦労はしていまい。だからこその裏方、肩書きを背負わぬ働きを勧めておるのさ。」
「はぁ。私には、何を言っているのか永遠に分かりそうもない世界だな。」
「無理に分かったつもりになる必要はない。ペンにはペンにしか、剣には剣にしかできぬ仕事がある。」
「まあいい。魔剣の精霊も、今のところ反対する気配はない。祖先から伝えられた、何かの使命か定めがあるのだろう。
私は魔剣に見出されたのだ。目に見えずとも、何かの流れに乗っているに違いない。まずはその日々の中で、努力するのみだ。」
「ふ。不遇を嘆いていたかと思ったら、やけに前向きではないか。」
ふん、と息を吐き、答えずにおく。
「それはそれと、魔道兵器の共同管理という今回の流れも、本当に平和につながっていくという確証はない。
対魔王の戦力を集め、帝室預かりとしていくと言えば聞こえはいいが、かつて帝国は勇者たちを裏切ったのだ。
勇者たちの残した魔道兵器は、いずれも超高位の魔道具ばかり。意思を持つ精霊も多かろう。
眠りについた魔道兵器は、勇者が迫害されたことを知って精霊が心を閉ざしたということもありうる。
迫害された勇者の、復讐を考えるような精霊がいないことを願うばかりさ。」
「勇者が残せしもの、今となってはその中身を知る者はおらぬ、か。」
「切り札というのは、いつだってそういうものさ。」
官房長の従者に従い、官房長室に、案内される。
「さて、お偉い様がたへの、お目通りといくか。」
「魔剣士ミツルギ、参りました。」
官房長、ソチモワールとその参謀役たち、シュッツコイと副隊長。
「第二会場」の面子に、新たにミツルギが加わった形だ。
官房長が立ち上がり、シュッツコイとミツルギを迎える。
「か、官房長殿……」
ミツルギは、帝室の大物を目の前にして、驚いている。
五精家出身とはいえ、末端の地位にあったミツルギは、帝室との関係で言えば末端職員以下の扱いだ。
式典で遠くから見たことがあるものの、官房長自ら起立しての礼など、どのように答礼すればよいか見当もつくまい。
「魔王の復活の予兆のある中、これほど早く、強い力を持つ者が見つけられたことは、まことに幸いであった。ミツルギ殿、その力を、帝国の安寧のために貸していただきたい。」
「は。微力を尽くします。」
硬直したように、騎士もどきの礼を捧げるミツルギ。
ソチモワールが、脇から声を掛ける。
「ここでは、形式は必要とせんよ。我らも、ここにいる参謀格とても、思ったままに口にすればよいこととなっている。のう、シュッツコイ。」
「ミツルギ殿、そういうことだ。騎士の名誉もないかもしれんが、お前さんの嫌う不条理もここにはない。意見を言うのに、遠慮は要らん。むしろ、口にしない方が罪だと思え。」
「は、はあ。」
「さて、第二会場の活動に戦力が加わったところで、今後の方針を検討していきたい。」
目を白黒させたままミツルギが着席すると、活発な議論が繰り広げられていった。