コーダ様の術
コルダ…… いえ、コーダ様は、その凛々しいお顔に、少し戸惑いの表情を浮かべていらっしゃいますね。
どこまで知られているのだろう…… そう考えていますね……。
ふふ、あなたさまの心の内など、私には、手に取るように分かりますとも。
「人払いは、済ませてありましてよ。」
コーダ様は、魔道具に封じられた精霊の声を聞くことができる、帝国でも珍しい能力の持ち主。
そして、剥奪の術という、黒の系統に属する破精術の使い手でもあるはず。
それも、飛びぬけて強力な。
すなわち、コーダ様は、魔道具の精霊に対し、従わねばその存在を消し去るという直接的な交渉が可能。
「我に従え。さすれば、支配される愉悦を。さもなくば、虚無を。」
コーダ様が、巨大な精霊に盟約を突き付ける姿が目に浮かびます。
それが、土精家の魔剣を動かした、一つの鍵だと私は考えているのです。
逆に言えば、あの魔剣の精霊と交渉が可能なほどの、破精術。
それは、かつての勇者や魔王に比肩する力。
破精部隊に知られれば、その監視下に入り、従うか、殺されるか、どちらかしかなかったでしょう。
その術は、固く秘して、滅多なことでは人に見せなかったはず。
「私も、あれから色々と学んだのです。
コーダ様の力は、帝国の秘奥に関わるもの。帝都に暮らせば、いずれイジュワール様に囚われるしかなかったでしょう。火精家の方々は、それを思ってコーダ様を、家から出されたのですね。」
コーダ様は、私の言葉に、驚いたご様子。
ふふふ、私がそこまで掴んでいるとは、思っていなかったのでしょうね。
イジュワール様がお隠れになって、帝都に戻れるようになったのですね。
大丈夫、術の秘密は守ります。
コーダ様には、誰にも手を出させてたまるものですか。
ああ、今度は、じっと私のことを見つめていらっしゃる。
信頼できるかどうか、見極めようというのですね。
ふふふ、と不敵な微笑みを浮かべて立つリュシーナさま。
どうやら、リュシーナさまは、僕の事情をいろいろとお見通しのようですね……
さすがに、僕がイジュワールを封じてしまったことまでは、分からないみたいです。
にしても、まさか、イジュワールとも関係があったとは。
イジュワールって、何者なんでしょうね。
やっぱり、帝国の暗部に根を張っているような存在だったのでしょうか。
だとすると、リュシーナさまも、暗部に絡んでいるのですか。
水精家の後継者筆頭ともなれば、帝国の表も裏も、帝王学と合わせて叩き込まれるのでしょうね。
可憐なお立ち振舞いでありながら、陰に陽に、駆け引きと暗闘の繰り返される日々を送っていらっしゃるのでしょう……。
力を持つほどに、自由でなくなる。
ミツルギ様とはまた違う生い立ちとは言え、同じように、帝都を離れて自由な時を一瞬だけでも持ちたかったのでしょうか。
それなら、こじつけでも何か物語を作って、ダンジョンに連れて行ってあげればよかったでしょうか。
……いえ、過ぎたことです。
そして、リュシーナさまは、その戦いの渦の中に、しっかりと自分の足でたっていらっしゃる。
見た目は少女でも、その心はきっとすっかり大人なのでしょう。
あとは、「破精部隊」……?
破精術を用いる部隊、でしょうか。
イジュワール傘下の、実働部隊でしょうか。
もしもイジュワールを封じたのが僕だと知ったら、狙いに来るかも知れないってことですね。
「破精部隊のことが、気になるのですか。」
また、心を読まれてしまったようです。
リュシーナさまには、そのような能力があるのでしょうか。
だったら、水鏡とか要らないのではないかと思ってしまいますね。
コクリと頷くと、腕組みをして、リュシーナさまが語り始めます。
「ここからは、機密事項よ。」
いえ、どちらかといえば、基礎の方からお聞きしたかったんですが。