新たな修行者
「コーダ? どうした? 妙な顔して。」
色々と支度のあるという二人と別れたコーダのもとへ、アラクレイがやってきた。
「あ、アラモードさん。
ミツルギ様が、新しい上司を紹介してくれたんですよ。いい人そうで、それはいいんですけど、コルダは、ミツルギ様に、やたら感謝されてしまって。」
「ほー。コルダの修行に感謝ってことか? でもよ、強くなったのはそうだとして、仕事が見つかったのは、修行の成果っていうわけでもないんだろ。」
「ですよねえ。戻ってくる前から、ミツルギ様の勤め先は決まってたみたいですし。実際に話を付けてきたのは、ボタクリエさんだと思うんですけど。」
「まあ、ミツルギ様は人間関係で苦労してそうだったからな。働き始める前に、仲間と一緒に冒険して、いい思い出ができたってことでいいんじゃないか?」
「うんうん。貴族の学校には修学旅行というものがあるそうですしね。僕は行ったことがありませんけど。楽しい思い出ができたなら、よいことですね。
それはそうとして、なぜだか、ミツルギ様には僕の正体がバレちゃったんですよ。上司の人が気づいたのかもしれませんけど。」
「ほー。例の、どこぞの貴族の息子だって話か? やっぱり、高位貴族の家ともなると、単なる探知だけじゃない、何かいろいろな技を持ってるのかね。
どうする。変装して隠蔽かけてても、なんだかんだ見破られちまうみたいだし、面倒ごとになりそうなら、しばらく帝都を離れるか?」
「とりあえず、ミツルギ様たちは、黙っていてくれそうなんで、急いでどうこうってことはなさそうです。
ただ、いきなりミツルギ様がいなくなってしまうとは思ってませんでしたね。ウラカータさんも、さすがに商会に帰してあげなきゃいけませんし、僕とアラモードさんだけじゃ、こないだみたいな無茶な探索はできませんよね。」
「そら、そうだろ……。あの魔剣は、威力といい、幕営機能といい、便利過ぎたからなあ。
まあ、魔道兵器もまだ運ばなきゃならんし、前にケーヴィンとこに置いてきた分も、ほったらかしだろう。運ぶ方は商会にまかせちまってもいいが、お前さん、魔道兵器を集めたあとどうするかって話、忘れてないだろうな? 」
「えっ。えーと。
……そう、あの頃とはまたちょっと事情が変わってきちゃったんで、新しく検討しないといけないことが出てきたんですよ。」
アラクレイは、コーダの顔をのぞきこんでいる。コーダは、空に目をやりながら、必死に何かを考えている。
「んー? ホントに、考えてたのかぁ? 新しい事情ってなんだ。」
「そ、そう、この催しですよ。平和のための歩み。これがちょっと想定外だったんですよ。」
「なんでだ? 表立って集めることになったとしても、結局やってることは一緒じゃねぇのか?」
「集めた後のことですよ。運び込んだ振りをして、剥奪で処理してあとは潰してしまおうと思ってたんですけど、どうも、後で様子を見せることも想定しないといけなさそうで。」
「なんだそりゃ?」
「今は使えなくなったと思われていた魔道兵器も、土精家の魔剣みたいに、蘇ったりするんじゃないかって話ですよ。そうなると、あんまり行方不明扱いにはできないですよね。」
「……魔剣を蘇らせたのって、お前さんだったと思うがな……。どうするんだ、ただ保管するんじゃあ、単なる慈善事業になっちまうぞ。」
「うーん。剥奪だけして、抜け殻を残しておくってのは考えたんです。張りぼてですけど、見せるだけならいいですよね。
ただ、まだちらっと眺めただけなんですけど、集まってる魔道兵器の精霊の中には、もう一度働く気がありそうなものも、結構あるんですよね。中の精霊をねじ伏せるとか、眠っているのを起こすとか、手順は必要そうですが。」
「それこそ、各家の機密だとか失われてしまった何とかって奴だろ? コーダには、それが見えてるってことか……」
「見えるというか、聞こえてくるものからの想像ですけど。」
「で、そんな言い方をしてるところからすると、蘇らせる気はあまりなさそうだな。」
「魔王を倒すのに備えて残しておいたっていう兵器ですよ? 共通の敵がいて国がまとまってるときならまだしも、今みたいに人と人が勢力争いしてるだけの時代には、ちょっと強力すぎる気がするんです。」
「そうだな。ミツルギ様の力でも、あれが人に向けられたらって、考えたくもないな。
そうすると、あれか、蘇るのをコントロールするために、魔道兵器を集めるってことになるのか? 一周回って、平和のための歩みってわけだ。」
「なるほど……。いいことしてるのに、何か目的を見失った感じになるのは、どうしてでしょうね。」
「失うほどの目的が、コーダの中にあったのか?」
「うっ。」
巨大な力にかかわることながら、のんびりとした様子で話していた二人のもとに、近づいていく人影がある。
「ボタクリエ商会の者だな。私は魔杖の継承者、修行の手配を依頼したい。」