コルダという少年
「不束者だが、帝国の平和のため、勤めさせていただこう。」
ミツルギが、騎士のような礼をシュッツコイに対して行う。
「ふふ、不思議なものだ。騎士を目指すのをやめた時に、仕える相手が現れるというのは。」
シュッツコイも、改まった姿勢と口調で述べる。
「魔剣の使い手、ミツルギ殿よ。立場上は私が上司かも知れぬが、そなたの力は帝国一、二を争う剣であろう。帝国の平和のため、しばし、その力を貸してほしい。」
ミツルギが改めて頷き、二人は歩き出す。
「我々の組織は、『第二会場』と称していた。ボタクリエ商会と提携しミツルギ殿を迎えたことで、活動の内容も変わってくる。おそらく、改めて方針を協議し、名を付けることになるだろう。我々の上席達についても、後日、紹介しよう。」
「さしあたり、私の任務はどのようなものなのだ。」
シュッツコイは、腕を組んで、苦笑気味に首を振っている。
「想定よりもかなり早く修行から帰ってきたのでな。正直言って、これから考えるところだ。住む場所から、考えねばな。」
「ふ。上司が聞いてあきれる。招いておいて、寝床さえ無いとはな。」
「ま、生活のことはボタクリエ商会が何とでもするだろう。そうだな、今日の催しで、ボタクリエ商会は多数の魔道兵器を引き受けることになる。まずは、その警護につくことか。」
「魔道兵器の保管となると、再びの、昏き函か。コルダ殿達も、同行するのだろうか?」
「ああ、ボタクリエ殿は、コルダ殿と打ち合わせが必要だと言っていた。そういえば、ミツルギ殿も、そこへ行ったことがあるのだったな。」
「私は、中には入っていない。ゲートの魔法陣に、魔道具が飲み込まれていくのを見届けただけだ。管理していた術師は、相当高位の魔道具を身に付けていた。村自体も、不思議な場所だった。」
「その村も、コルダ殿の案内らしいな。……今回の催しも、コルダ殿の発案だとか。」
「私も詳しくないが、そんなことを父上がおっしゃっていたな。」
「魔道兵器供出の見返りに、精霊石がばらまかれる。
その石は魔道具に作り変えられ、その魔道具は騎士団や軍の強化に使われる。
結構な話だが、その精霊石は、どこからボタクリエ商会に流れてきたものか。」
「おそらく、コルダ殿が関わっているのだろうな。今回の修行でも、ついでのように様々な魔物を討伐して、何粒も精霊石を採集している。
私も五精家の末端に属する者。精霊石も、人よりは目にしてきたはずだが、コルダ殿に絡んで扱われる精霊石は、相当なものばかりだ。」
「ほう、コルダ殿が魔物を……。コルダ殿というのは、見た目は少年と聞いているが、お強いのか。」
「様々な術を自在に扱うが、特別に強力な術は見ていない。私の修行のために控えていただけなのか、魔力自体はそれほど大きくないのか、私では判断が付かぬな。」
「そう簡単に、底が割れる人物ではなさそうか。」
ミツルギは、足を止めて正面からシュッツコイの目を見つめる。
「シュッツコイ殿は、コルダ殿を疑っているのか?」
「敵対する者とは考えていない。だが、個人的には、懸念していることがある。」
「それは、聞かせてもらっても?」
「うむ。私は、コルダ殿が、生き残りの勇者か、勇者の末裔なのではないかと考えているのだ。」
「勇者の? なんと。確かに、彼が単なる商人とはとても思えぬ。
しかし、そうであれば、今回の話は、私よりもコルダ殿に先に話すべきではなかったのか?」
「勇者の力を求めてはいるが、勇者を求めていたわけではないのだ。いや、勇者の側が、我々のことを忌避するだろうと、考えていた。」
「なぜだ。勇者は、魔王を討伐して帝国の礎を築いたのではないのか?」
「そうだ。だが、平和となった後、勇者たちは、様々な方法で表舞台から駆逐された。今のように、勇者たちの地位が復権されたのは、表で活動する勇者がいなくなってからのことだ。」
「な……?」