継承者の悩み
力が、抑えられていた……?
苦しみぬいて鍛錬を重ねても成果が上がらなかったのは事実だが、そんな風に考えたことはなかった。
「付与術が使えない者は、五精家にはいられないという掟があるそうだな。」
頷く。
「その掟についても、解釈できないことはない。
付与術が封じられていれば、多少能力があろうと、将来的に五精家で重要な役に付くことはあり得ない。当然、注目を浴びることも少なくなり、目立たぬ存在となる。
逆に、途中から付与術が使えなくなるという事例は聞かないことを考えると、継承候補者は、生まれた時から決まっているのかもしれんな。」
改めて、想像してみる。
この男の、シュッツコイの言うように、実は私は生まれたときから選ばれし者だったとする。
魔王の手の者から目をそらすために、肉親にさえも、その資格は隠蔽され、能力は抑制される。
そして、いざその時が来たれば、魔道兵器が蘇り、継承者は解放されたその力をもって戦いに向かう。
読み物にでも、ありそうな話だ。
封印されし力を、お前にしか使えぬ剣を、いまこそ。
平凡以下だったはずの私が、英雄譚の「主人公」になる。
少し前の私なら、待ち焦がれていたはずの、物語。
しかし。
コルダ殿の顔が思い浮かぶ。
彼らと過ごした時間は、今の物語とは異なる感触で、記憶の中にある。
そうだ。
改めて、騎士団での訓練の日々との違いに気が付く。
ともに修行を過ごした彼らは、貴族であろうと、不器用であろうと、私のことを全く特別扱いしていなかった。
生まれついての選ばれし者だったなどと、まったく感じさせなかったのだ。
私を魔剣の元へ導いたコルダ殿も、まるで私の修行など何かのついでで、探索自体が目的であるかのごとく、あたかも楽しんでさえいるかのように振る舞ってみせていた。
アラモード殿も、私と同じく剣士であったが、魔剣の使い手となった私に対して、羨望や嫉妬の表情など、一度も見せなかった。
コルダ殿の「アラモードさんも、こういう剣が欲しいですか?」という冗談にも、「俺はもう、自分の剣を持っている。」とだけ答えていた。目を剥いて、否定していたような気がしないでもない。
そういえば、アラモード殿の携える剣は、特別に優れた魔道具には見えなかったけれど、その言葉に応えるかのように、桃色の光を放っていたのを覚えている。
ウラカータ殿は、ただ、つつましやかに、暖かい目線で、背中を守ってくれていた。
村で急きょ危険な業務に同行することになったにも関わらず、「私に、このような冒険の場をもたらしてくれたミツルギ様には、本当に感謝しております。」などといって、歓迎の言葉さえ口にしてくれた。
人生の先輩として、あのような懐の深さに、あこがれを感じてしまう。
あれは、私にとって、人生で初めてともいうべき、自由な時間だった。
不安や混乱は、その自由とどう向かい合うのか、その未知から生まれたものだったのだ。
それに、もう一つ、気が付いたことがある。
彼らは、魔剣を継承した私に対しても、何をしろとも言わなかった。
修行は、確かに大いなる力を私に授けてくれた。
だが、その力を使って何をするか、彼らは、あくまで私が決めるべきものとして、宿題を残していったのだ。
眉間にしわを寄せて考え込んでいた私が、急に晴れやかな顔になったように、シュッツコイには見えたかもしれない。
「私は、魔剣に選ばれた。だが、それは生まれついてのものではなく、ただ、ほかにいなかった、その程度のものだと考えている。修行の折にも、魔剣の精霊から、お前はどんくさいと罵られていたような気もするくらいだったからな。」
言葉を重ねていく。
「なぜ今、魔剣が蘇ったのか、それは私には分からん。だが、魔剣を通じて、私は様々な力や想いを手にすることができた。
魔剣の精霊が私に力を貸す気になったのであれば、それに応じる気持ちはある。帝都の平穏を守るためならば、シュッツコイ殿の力となろう。」