ミツルギの行き場
「おお、コルダ殿! 当分顔を見られぬかと思っておったぞ! さ、さ、こちらへ。」
なぜか、土精家のご当主は、僕の方を見て嬉しそうに手招きをしてきます。
修行の旅に出る前にも、そんなに親しく話した覚えはないんですが。
「は、ご当主様、ただいまミツルギ様の修行の旅から戻りましてございます。して、わたくしめに、何か御用でしょうか。」
「ん? 修行の旅は、取りやめて戻ってきたのではないのか? まあよい。
今日は、平和のための歩みの祝いの宴。聞けば、この企画は、元々はコルダ殿の発案だというではないか。」
平和のための歩み? 祝いの宴? はて。
そこに、ボタクリエさんが救いの手を差し出してくれます。
「コルダ殿、いきなりのことで戸惑うのも無理はありませんな。
平和のための歩みというコルダ殿のアイデアをもとに、今日の宴席が設けられているのです。
先日の商談会が精霊石の販売を手掛けたものならば、こちらの集まりは魔道兵器の回収の催しなのですよ。」
え、堂々と魔道兵器を集めちゃうってことですか!?
せっかく魔道荷車まで作ってきたのに。
「このように帝国史に残るような催しを、わが土精家のもとで行えたこと、コルダ殿には感謝してもしきれぬ。」
「帝国史に残る催し……? どういうことでしょう。」
「そうですね、私としましても、このような催しは考えていなかったのですがね。
そちらの魔剣の復活騒ぎがあったために、どこの家にどんな魔道兵器が眠っているのか、このままでは疑心暗鬼から紛争の原因になりかねないと帝国議会で問題になりましてね……。」
帝国議会……?
あれ、ボタクリエさんが光を失った遠い目をしています。
何がどうつながってるのか、よく分かりませんが、僕が原因でボタクリエさんに苦労をかけたってことですか?
「今日は、平和のための歩み、つまり各貴族家の軍縮協定が無事に締結されたことの祝いの宴なのですよ。」
……もう少しゆっくりと詳しい話を聞きたいところですが、それより、出鼻をくじかれて僕の背後霊のようになっているミツルギ様の方が気になります。
「ええと、それはそれとして、ミツルギ様の修行は一段落してきたんですが、そちらの方はどうなるんでしょう?」
ご当主が、ニコニコと語ってきます。
「ああ、魔剣については、土精家から手放されることになりました。」
「え?」
「え!?」
「あの魔剣には、すさまじい威力がありますからな。平和のための歩みとして他家が魔道兵器を供出しているさなかに、土精家だけが強力な魔道具を新たに装備するのは、他の五精家との均衡上も、好ましくないという判断になりまして。」
「あ、あの、そうなると、ミツルギ様は……?」
「魔剣の主ですからな、魔剣と共に土精家から出すことにいたしました。」
えええ……? そ、そういうものですか? 確かに、付与術が使えない者は、五精家に残ることはできないでしょうが、あまりに唐突ですよ……?
あれ、ミツルギ様?
どちらへ!?
姿が見えませんよ?
私は、魔剣と共に、土精家を出されることになるらしい。
土精家には、私の居場所は最初から無かった。
それは、分かっている。
修行を積んだところで、鼠が羊になって帰ってくることなどない。
チーズを盗む者は毛皮の役に立たないと、この土地の諺に言うではないか。
フラフラと、会場をさまよい歩いた。
土精家の、騎士団の礼装を付けた一団がいる。
私が見習いだった時に、教師役を務めていた先任達だ。
嫌がらせを繰り返された思い出しかない、ウンザリする連中。
「おや、魔剣の継承者たるお嬢様ではありませんか。いや、土精家からは、もう出されてしまうのでしたか。」
「修行の旅に出たと聞いておりましたが、早くもあきらめが付いたので? いやいや、それは賢明な判断だと思いますぞ。」
散々に訓練で打ち据えられた痛みと屈辱が思い出される。
うつむいて返事をしない私に、一人が手を伸ばして肩を掴んできた。
「どうしたのだ。土精家の剣を継いだと、大げさに触れて回ったのではないのか。この、騎士見習いにもなり損ねた落ちこぼれが……」