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旅の仲間

「その腕前を見込んで、探索パーティーの盗賊役(シーフ)を、お願いしたいんですよ。」


ウラカータは、外見も立ち居振る舞いも、まるで貴族屋敷の執事のようだと称されてきた。


執事のような商人、その実体は商会の武装諜報工作員。

自分自身でも、密かに鍛錬を積む中で、そのようなギャップを愉しんできたところはある。


だが、この少年は。

それらを単なる()()()遊びのように扱ってみせたうえで、未知のダンジョンの探索という命を懸けてのやり取りの中で、その力を試してみないかと投げかけているのだ。


「前人未踏の、ダンジョンですぞ。領主などへの、届け出は良いのですか?」


未知の冒険への誘惑。それに対する最後のあがきが、常識人としての一言となった。


「こちらの村長は、ダンジョンを管理する霊樹と、ある種の協定を締結しています。ダンジョンの一部の権限を掌握していると言っていい状況です。

 確か、帝国の法令においては、未管理のダンジョンを制圧した者がいたばあい、ダンジョンにまつわる権限は、まずはその者に属することとなっておりましょう? 我々は、村長からの依頼によって、ダンジョンの概要を調査し、その結果をまとめたうえでしかるべき報告を行う、そういうことですよ。」


()()()()の、ダンジョンを、一部とはいえ()()が掌握している。

何を言っているか、分からなかった。

いや、今でも。


上位精霊を使役する術者にも強大な魔道具にも見向きもしない、村人たち。

ダンジョンの管理権限を掌握しているという、村長。

この村は、いったい……。


ウラカータは、ひなびた村の姿をした、何か全く別な存在が、この場に広がっているかのような幻覚を、振り払うことができない。


それでも。

まだ誰も見たことのない、ダンジョンの探索。

どれだけ肉体や技術を鍛えようと、自分には縁のないものと考えていた、人の世界を離れての、冒険。

挑戦という言葉が、自分の日常の中に絶えて久しかったことを、思い起こされた。


「分かりました。探索に、お供しましょう。」


自分でも驚くほどに、晴れやかな声だった。


しかし、それに続いたのは、混乱に満ちたミツルギ様の声であった。


「ま、待たれよ! 未知のダンジョンとは、ど、どういうことか……!? しゅ、修行だぞ。普通に考えたら、安全を確保した上で行うものではないか!? し、しばらく、安全な場所で剣に習熟してからというのはいかがだろうか……。」


コルダは、動じた様子を見せない。


「よいですか、ミツルギ様。思い出してください。」


「な、何をだ……」


「先日、魔剣の力の一部を、試された時のことですよ。」


「魔剣の力……? ああ、岩をも切り裂く……」


「申し訳ありませんが、あの剣を受けられる訓練相手が、思いつきますか?

この場合、安全を確保しなければならないのは、相手方の方ですよ。」


「うっっ……。」


「あるいは、他の騎士や剣士に、試合を挑みますか? あの剣のことを知って、試合を受けてくれる者がいるとも思えませんし、話を持ち掛けた時点で、その家や団体を敵に回すと思われませんか?」


「く……、厭われることを、今さら恐れはしないが……」


「他家の者がミツルギ様を嫌おうと構いませんが、魔剣を持ち出した土精家が、むやみに他の勢力を卑下し挑発していると思われるのは、得策とは言えないでしょう。」


「し、しかし……」


「つまり、今のミツルギ様に足りないのは、すでにあなたはお強いという自信であり、さらに強くなれるという自覚でございます。ダンジョンでしばらく修業をすれば、このような悩み、朝霧のように消えてしまいますよ。」


「そ、そういうものだろうか……」


ミツルギ様は、いまだ半信半疑の体であったが、コルダはこの話はおしまいと打ち切ってしまった。


「では、村長さんのところに行きましょうか。」




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