積み荷を降ろしたら
コルダとケーヴィン……師と称するべきであろう……の間で、手早くやり取りがなされる。
「村長には、話は通してあるか?」
「いえ、まだですね。荷下ろしを先に済ませてしまおうかと思いまして。」
「後で、同行しよう。では、荷をこちらへ。」
ケーヴィン師の指示に従い、ゲートとなる魔法陣の上に、荷車から荷を下ろしていく。
数点ごとに、ケーヴィン師が何かの術を発動させると、ゲートの中に沈み込むようにして、魔道具が転移されていく。
人力では動かせない重量の魔道具もあるため、重荷役用の魔道装甲も用意していたが、ケーヴィン師の使役する土人形「アーシアン」は、熟練の荷下ろし作業員に匹敵する手際で荷を扱っている。
魔道装甲と土人形が一緒になって、二メルテルもあるような魔道兵器を運んでいても、やはり、周囲の村人は特段の興味を示していない。
日常風景なのか、見えていないのか。
封印空間……昏き函のことも含め、このような村の存在、全く聞いたことがない。
「さ、荷物はこれでおしまいですね。荷役の業者さんたちは、もう帰路についていただいても結構ですよ。こちらは、お仕事が順調にいったことへの、ちょっとした心づけです。
あ、この村のことは、あとでこのウラカータさんが正式に商会に報告することになりますので、皆さんは勝手なことを言いふらしたりしては、いけませんよ。」
立ちすくんでいるウラカータの脇で、コルダが業者の中で目ぼしいものに、布の袋を手渡している。
中を覗いた者が、目を剥いている。
口止め、か。
ウラカータを残して、ここから速やかに立ち去れ。そして、沈黙せよ。
メッセージは明確に伝わったようで、空荷となった荷馬車隊は、往路に倍する勢いで街道を離れていくのだった。
ウラカータは、隊商主任の目線に対し、頷くことしかできなかった。
「コルダ様……。この村は、一体、どういう場所なのか。」
ウラカータが口に出せなかった問いを発してくれたのは、ミツルギ様であった。
「ふふふ。この村はですね、実はダンジョンの地上部に位置しているという、特殊な事情を抱えた村なのです。」
「地下に、ダンジョンがあると?」
「はい。正確には、単純な地面の下というわけではないようですが。」
「では、こちらのケーヴィン師が、封印空間……昏き函を、ここに開いたので?」
ウラカータも、聞きたかったことを重ねて問うてみる。
ケーヴィン師は、一体何者で、どこから来たのか。
「えー、どうなんでしょうね。昏き函……のことを知ったのは、我々も、ごく最近のことでして。
ダンジョンの方は、……長い間、眠っていたみたいなんですね。
ケーヴィン……師が、今の工房を構えたのも、確かに同じ時期ではありますね。
ただ、昏き函……の存在は……、いつからあったものか……、私どもには……分かりかねますね。
あ、そうそう、そのダンジョンが、ミツルギ様の修行の場となる予定でございます。」
ケーヴィン師や昏き函の存在についてのコルダの答えは曖昧で、何かを考えながら話している様子だったが、ダンジョンについて語りだすと、急に饒舌になっていった。
「我々も、まだ入り口付近を確認しただけで、内部を探索した者は誰もおりません。非常に広大な面積と思われますが、前人未踏、未開のダンジョンなのです。
魔物も多数生息しているようで、中には知的な存在もいると想定されます。
それで、相談なのですが、ウラカータさん。ミツルギ様の修行、つまりダンジョンの探索に、同行していただけませんか。」
ボタクリエ商会としてミツルギ様の修行を請け負っている以上、これは内部的な業務分担の話題でしかない。
ないのだが、危険度さえ分からぬ、そして、どれほどの価値の品があるかも分からぬ、未知のダンジョンへの探索行である。
ダンジョンの探索は、単なる開拓とは扱いが全く異なる。領主による探索であれば、騎士団や兵から信頼のおける者が選抜されるであろうし、冒険者ギルド主導の探索であれば、業績に応じたランク付けによって、探索への参加資格は厳密に管理される。
言い方を変えれば、一商会の従業員に過ぎないウラカータが、このような探索に参加する機会など、通常では考えられない。
「ウラカータさんは、いろいろな技術を、鍛えていらっしゃるでしょう?」
コルダが、ニヤリと笑っている。
とっくにお見通しというわけだ。
「その腕前を見込んで、探索パーティーの盗賊役を、お願いしたいんですよ。」
ブックマーク、評価、ありがとうございます。
オンライン小説を書き始めてちょうど半年くらいになります。
総合評価で言いますと、
最初の作品が10ポイントくらい、
次の作品が100ポイントくらい(一応、まだ未完です)、
そして、この作品で、先日400ポイントを超えたところです。
自分の書きたいもの、書けるものの中で、できるだけ多くの人の共感を得られるものを求める作業には、パズルを考えているような感覚がありますね。
センスや勢いで面白いものを書ける作者のことをうらやましく思いつつ、自分としては、「書くことの楽しみ」が続いていったらいいなと思ってます。