ウラカータの思索
コルダ達の示す目的地までは、順調な旅路であった。
帝都近郊では多少の魔物の活動があったそうだが、例の警備隊や領主軍の活躍で撃退したという。
ウラカータは、一日目の夜に、コルダとアラモードが、キャンプ地の隅で話しているのを聞いてしまった。
「アビスマリアさんの力を使っても、ダンジョンを作ったりしなければ、魔物は大した動きをしないみたいですね。」
「ある程度高位の連中は、何が起こってるかも感知できるってことかもな。あの魔剣は、むしろ魔素を奪い取る方だからな。魔物からすりゃ、恐ろしい代物だろう。」
「それもそうですよね。今回活動しているのは、本能だけでうごいてるような魔物だけってことですね。」
「街道領主たちにとっては、ちょうど都合のいい結果になったわけだ。ちょっとした魔物達の活動があって、それを撃退できる。魔道具も手に入ったばかりだしな。」
「また、そんな言い方をするぅ。」
「わっはっは……。」
想定を超える展開に、この三日間、ウラカータの口数は、ひどく少ないものとなっていた。
魔道具の取引までが自分の担当のはずだったが、何故か土精家伝来の魔剣の継承に立ち合う羽目になり、結果として修行の旅に同行している。
魔道具を運び終えればウラカータの仕事は一区切りのはずだが、コルダはどうも修行にウラカータの存在も数えている気配がある。
ウラカータなりに、現状の分析はしている。
コルダは、ボタクリエ商会の見習い従業員ということになっており、商会の名のもとに活動しているのだが、もはやボタクリエの承認を気にしている様子はない。
当初こそ、取引にはコルダ達は関わらない、顔も見せないという姿勢であり、精霊石を提供するだけの立場だったのだが、あるときから積極的に関与するようになっていた。
ウラカータは、その転換点が、商談会の途中、コルダが会場内をうろついていた時にあったと見ている。
あの場で、何らかの情報を、手に入れたのだろう。
隠れている必要がなくなった、あるいは、直接関与することが必要になった。
途中の因果関係は不明だが、その結果が、何らかの形で魔剣の登場につながっているのではないか。
また、魔剣の封印を解くための鍵が、例の破壊された倉庫にあったのかもしれない。
魔王討伐戦争時代の魔道具が、再稼働しているのだ。
まだ性能の全容は不明だが、そのための先行投資であったならば、精霊石百粒の価値があるとも言える。
だが、今のところ、土精家に対しては、偶然継承の場に立ち会ったにすぎぬような態度を貫いており、対価や褒賞を求めることはしていない。
百粒の投資の対価は、魔剣そのものではないということになる。
出立前に、ミツルギ様についても調査してみた。
しかし、剣士としての評価はあまりにも低く、能力によって剣の後継者となる要素は考えにくい。
また、付与術が使えず、特筆すべき術や才もないことから、やがて土精家を離れるのが確定事項という報告もあった。
このような習慣は五精家ではごく初期からあったとされているので、魔道具の継承者としては異例であることが否めない。
うかつに口にすれば不敬罪に当たるかもしれぬが、ミツルギ様は、本当に、継承すべき者だったのか。
思い返せば、魔剣が現れた際にも、ミツルギ様が選ばれたことを明確に示す場面は見ていない。
魔剣は、誰でも抜くことができる状態になってから、ミツルギ様に声が掛けられただけなのではないか。
本人も戸惑っているようにしか見えず、今回の修行の旅も、土精家としては扱いに困ってのことと考えられる。
だが、コルダは、修行の話を、あっという間に自らの仕事として請け負ってみせた。
むしろ、他の者に干渉させないように、囲い込んだ感さえある。
修行の方法についても、何か腹案があるようだ。
そういえば、「修行」に対して、コルダ達は並々ならぬ興味を持っているように見える。
ミツルギ様が、魔剣を使いこなせるようになることが、重要な意味を持つということだ。
となると、特別ではない人間が魔道兵器を使いこなすという過程そのものが、目当てなのか。
様々な要素を考えていくと、いったんはウラカータやボタクリエが目を背けた命題が、再び浮かび上がってくる。
各家が伝えてきた、すでに用法が失われたはずの魔道兵器を、誰でも扱うことができるとしたら。
今、荷車に満載され運ばれてきている恐るべき兵器達は、そのままコルダ達の武力となるのではないか。
そんなことを考えているところへ、コルダが声を掛けてくる。
「ウラカータさん、まずは、地下倉庫……封印空間とでも呼びましょうか、そちらを紹介しますね。大荷物ですから、先に魔道具を運び込んでしまった方がいいでしょう。」
封印空間……。
それは、この地に本当に平和をもたらすものなのだろうか……