ミツルギの進む路
「で、コルダ、ミツルギ様の修行は、いつからどうやって始めるんだ? 俺が剣を教えるのか?」
「ふふふ、まずは村に魔道具を納めに行きましょう。話はそれからです。
ミツルギ様の修行になり、僕らにとっては未知の探索であり、とある精霊に対してもお役に立てるという、一石三鳥の素敵な計画が、あるのです。」
誉めて誉めてと尻尾を振っている犬のような気配のコーダである。
アラクレイの記憶する限り、こういうときのコーダには、確かに悪意はないのだ。
「しかしよ、村まで同行するのはいいとして、さっさと修行を進めたいなら、道中は何もしなくていいのか?」
「ミツルギ様には、普通の修行をしてもあまり意味がないというのは、もうご本人が証明済みですよ、ね?」
「努力が無意味だったと言われると、少々心に堪えるものはあるがな。成果が上がっていないことは認めよう。」
「おっと、よろしくない言い方でした。今のミツルギ様には、魔剣がありますからね。新しい修行の方法が可能になったってだけですよ。そうそう、その魔剣とは、お話はできますか?」
「うむ。呼びかけても、たまにしか返して来ぬがな。」
「ま、修行については、打合せが済んでますので、その時が来たら導いてくれますよ。」
打合せ? 導き? コルダは、何を言っているのだろうか?
「おいおい、もっと、分かりやすく説明してくれよ。」
アラクレイが、さすがに口をはさんできました。
「ああ、すみませんでした。順番に行きましょうか。まず、その剣は魔剣と呼ばれていますが、その正体に、ミツルギ様はもうお気づきですか?」
「正体? 魔剣であるということ以上の正体とはなんだ?」
「ふっふっふ。実は、その魔剣は、剣の形をしたダンジョンなのです。」
この少年は、何を言っているのだろうか。
「あれ? 上手く伝わりませんでしたか。
その魔剣は、実はダンジョンで、その主となったミツルギ様は、ダンジョンマスターになったのです!」
何を言っているか、ますます分からぬ。
思わずコルダの顔を見つめてしまう。
いかん、私がじっと顔を見つめると、喧嘩を売っていると思われてしまうのだ。
そっと目をそらして、話の続きに耳を傾ける。
「ダンジョンマスターになると、ダンジョンが得た魔素から、力を取り込むことができるようになります。つまり、魔素で、肉体や精神を、強化できるようになります。
すなわち! その魔剣を手元に置いていれば、ミツルギ様は、まるで勇者のように成長できるのです!」
「……この魔剣が、途轍もない力を持っていることは、分かる。その力が、私を護ってくれるというのも、ありそうな話だ。だが、それらは魔剣の力であって、私が魔剣に相応しい力を持つということとは、違うのではないか?」
「ミツルギ様は、騎士団の訓練では、剣技や体術が身につかなかったのでしょう?」
「……ああ。」
「付与術が使えないといっても、ほかの術が得意ならば、騎士団で術師を目指すこともできたはずです。それをしなかったということは……」
「お察しのとおり、私は付与術以外も人並み以下だ。特に、どのような場面でどのような術を行使するか、その判断の速さや発想力で落第した。」
改めて、思い出すだけで落ち込む。
「大丈夫、大丈夫です。剣技や精霊術が使えなくとも、戦術判断が遅かろうと、何とかなる。それが、土精家に伝わる魔剣の凄いところです。魔素さえ集められれば、その主を直接強化できる。こんな魔道具は、そうはありません。
今回の修行のポイントは、そこです。ミツルギ様自身で魔素を集め、それがミツルギ様のパワーアップにつながるのであれば、それは、ご自分でなさった修行の成果と誇って良いでしょう?」
「私が自分で、魔素を集めるのか。どうやって? 」
「ダンジョンに潜って、魔物を、狩るのです。」
「ま、魔物を!? 正気か。私は、並みの兵士とだって、打ち合うのがせいぜいの腕前だぞ? 確かに、この魔剣は桁違いに強力かも知れぬが、戦いは、武器の威力だけで決まるものではあるまい!」
「問題ありません。最初は簡単な相手から始めて、徐々に相手のレベルを上げて行けばよいのです。簡単な相手でも、数をこなせば魔素は集まります。
ミツルギ様、小手先の技や術が無いのですから、選ぶべき成長戦略は、勇者風に言うところの『レベルを上げて物理で殴る』、その一択しかないでしょう。」
「は? は?」
三日後、私が修行をするというその村へ、到着した。