ミツルギの旅立ち
わが名はミツルギ。
帝室の藩屏、五精家の娘。
とはいえ、付与術を使えぬ私は、五精家に残ることはできない。
嫁の口を探せ。
母上からは、何年も前から言われ続けてきた。
だが、この地味な顔立ち。
真面目な顔をしていれば何を睨むと言われ、笑えば恐れられ。
加えて、気の利かぬ物言い。
女友達はいる。彼女らも完璧などではない。
それでも、それぞれ何かしら秀でたものを持っている。
私の悩みは、分かるまい。
自分なりに考え、剣の道に進んではみたものの、先日の試験での評価は、攻めるも守るも芸なし、技足らずとの評価だった。
騎士見習いとしては、不合格の扱い。
通常ならば、いったん籍を失い、再度見習いの試験から受け直すことになる。
だが、私は籍を残されている。
言うまでもない。
五精家の娘だからだ。
騎士を目指していたが、良縁があり、残念ながらこちらはあきらめた、そういう筋書きなのだ。
正直に言って、行き詰まっていた。
何かが起こらないか。
多少の災厄でも構わない。
この息苦しさから、生き難さから、連れ出してくれるのならば。
そんなことを、願ってさえいた。
そして今。
私はお父様の前で、膝をつき、出立の訓辞を受けている。
従者さえ付けられず、修業の旅に出るのだ。
無能の剣士が、土精家の剣を継いだ。
細かい経緯はさておいても、成り立たぬ話である。
されば、剣の力に見合うものを、身に付けて参れと。
それまでは、帰ることは許されぬと。
騎士見習いにすら落ちこぼれた私が、勇者の遺した剣を継ぐに相応しい者となれと。
帰れる日の、浮かばぬ旅路だ。
だが、独りでの、出立ではない。
ボタクリエ商会の者達が、修業の旅を支度してくれるという。
移動の警護から、修業先の目当てまで任せて欲しいと。
お父様も、今をときめくボタクリエ商会とのつながりに、機嫌を回復された模様で、それはいい。
気になるのは、この少年だ。
見習いだという。
見習いの商人は、五精家伝来の武具の封印を解けるものなのか。
五精家当主と、屈託もなく語るものなのか。
よい修業先があると、思い付くものなのか。
御宅のお嬢様を、ひとかどの剣士に育て上げてみせましょうと、請け負うものなのか。
何を見習っているのか。
付き添いのはずの二人の大人は、遠い目をしているが、話を止めようとはしなかった。
残念ながら、実行が可能だと言わんばかりに。
私は、何処へ旅立とうとしているのだろうか。