ミツルギの魔剣
地響きを立てながら、屋敷が、溶けるように崩れていきます。
屋根から、壁が、柱が、縮んで、小さく、小さく。
地下の剣の間に、外の光が、射し込んできます。
庭も、屋敷も、消え失せて、クレーターのようにえぐられた土の中心に、最後に残ったのは黒い結晶の剣、一振り。
細く、細く、ねじれたような刀身。
「おいおい、普通の刃じゃねえな。」
「剣の形の、ダンジョンですよ。刀身が、丸ごと魔素と精霊石でできているようなものでしょう。」
振り返り、呆然としているミツルギ様に声を掛けます。
「どうぞ、お受け取りください。これが、土精家に伝わりし剣の、本来の姿です。」
「い、一体、何が起こったのでしょうか……」
「あの邸宅は、元々あの剣を受け継いでいくためにあったもののようですね。
私どもは、本来あるべき姿を、取り戻して見せたにすぎません。
ただ、残念ながら、売り物には、できないようです。この剣は、あなた専用のものとなっているみたいですので。」
「わ、私!? 私は、土精家の継承者などでは、ありませんよ!?」
「よいのですよ。この剣にとっては、家のことなど、どうでもいいんですから。さ、さ、どうぞ。剣を、抜いてください。」
今回は、精霊石こそ、手に入りませんでしたけれど、魔道具にまつわる思い出を得ることができました。
作られた芝居なんかより、ずっと素晴らしい!
「いやー、いいものが見れました。来て、よかったですね。」
「ま、お前さんらしい、結末ってことだな。しかし、ミツルギ、あの娘は、あの剣の使い手として生きていくのか……。なかなかに、波乱に満ちた生涯になりそうだな。」
「何を言っているんです。五精家に生まれたからには、静かな生涯なんて、あり得ないんですよ。ま、確かに、ダンジョンマスターになるような者は、そうはないかもしれませんけれど。」
ミツルギ様が、ゆっくりと、剣の柄に手を伸ばします。
周囲の家屋敷からは、何事かと顔を出した他の貴族たちの顔が見えています。
図らずも、剣の継承の儀式の、立会人たちですね。
吹き飛んだかのように、消え失せた土精家の屋敷。
その爆心地に残されし、突き立てられた魔剣。
そこに手を伸ばす、土精家の公女。
詳しい事情は分からないまでも、ただ事ではないことは一目瞭然でしょう。
あ、剣が、抜かれました。
黒いきらめきを放つ、細剣のごとき、細身の刀身。
ミツルギ様が、手ごたえを確かめるように軽く剣を振ります。
ゴウゥっ!
膨大な魔力のあまり、こちら側の風さえも巻き起こす…… これぞ、魔道具。
魔剣の名に恥じぬ存在感です。
あ、ぎこちなく、剣を構えなおしていますね。
さっそく、精霊による指導が始まったんでしょうか。
ヒイィィィーン……
不思議な振動音が聞こえます。
おお、岩が、バターのように……。
ミツルギ様は、同じ姿勢のまま、固まってしまいましたね。
「いやあ、さすがは魔王討伐戦争時代の遺物、ですねぇ……。」
下手なお芝居よりも、ずっと面白かったです。
「知ってるか? 今、お前さんが大量に集めているのは、ああいうレベルの代物なんだってことをよ……」