土精家の剣
「ミツルギ様、土精家の初代当主というのは、どのようなお方だったのですか?」
ホントは知ってます。
この国の人間ならば常識ですし、同じ五精家ですから、一般の人々よりもはるかに深く、ね。
「そういえば、そちらのコルダさんは、この国の生まれではありませんでしたね。」
「ええ、遠方の国から参りまして、こちらのボタクリエ商会の方で修業させてもらっています。」
「魔王を討伐した六人の勇者が、帝国を打ち立て、帝室と五精家が開かれました。五精家では、それぞれの得意とする精霊を旗印として、火、水、土、風、光としたそうです。」
「おお、魔王を。すると、この剣が魔王を討伐したということですか。」
「いえ、この剣は、魔王との戦いの中で砕けてしまったそうです。ただ、当主はこの剣を気に入っていたそうで、戦いが終わり、この邸宅を作る際に、剣の再生のためにこの剣の間を作ったと言われています。」
「なんと、この剣の再生のために……」
詳しい経緯はともかく、魔素を使ってこの剣を蘇らせようと、わざわざダンジョンを作ったのでしょう。しかし、そうなると、この部屋どころか、邸宅全体がこの剣のために生まれたことになります。
確かに、管理人もしていますが……。
「あれ?」
「どうした、コルダ。」
アラクレイが、小さな声で反応します。
「この剣は、屋敷の精霊の一部ですよ。」
「ああ、同じ気配を感じるな。」
「おかしくないですか?」
「うん?」
「屋敷のダンジョンを作ってから、その中に剣を安置したのなら、ふつう剣と屋敷が同じ精霊ってことはないですよね。」
「そうだな。」
「じゃあ、この剣の精霊は、最初からこの屋敷のダンジョンの管理者だったってことですよね。剣なのに。」
「ほう。するってえと?」
「本体が剣だったら、抜いちゃったらこの屋敷を管理する精霊がいなくなっちゃうってことですよ。」
「なら、当主とやらは、最初からこの剣を抜かせる気なんてなかったってことか。」
「そうなりますね。」
「どうするんだ? 屋敷ごと剥奪するにしても、大人しく従うような精霊じゃ、なさそうなんだろ?」
「そうですね。この大きさと魔力ですから、抵抗されたら、なかなか難しいでしょうね。
でも、僕にいい考えが、浮かびました。」
僕の、いい考えという言葉を聞いて、アラクレイが目をそらします。
どうしたんですか……?
「ミツルギ様。これから、管理者の精霊と、対話をしてまいります。剣と屋敷の精霊は、一体のようですが、土精家としては、その精霊を手放すおつもりということで、よろしいですか?」
「精霊を……? ええ、何しろ、この旧邸とその中の品々すべてについて、処分の権限を預かってきております。」
「では、取引をする前提として、どのような形であれ、まずは持ち出せるようにすることに、同意いただけますか。」
「はい。」
「では、この旧邸の、本当の姿を思い出してもらうとしましょう。」
「本当の、姿……?」
ミツルギ様も、ほかの面々も、戸惑いの表情を浮かべています。
僕は、カバンの中から精霊石を一つ、取り出しました。
「それは……?」
ウラカータさんが、戸惑いを隠せないまま、問いかけてきます。
「いろいろと思い出してもらうための、きっかけ、ですよ。」