旧邸にて
旧邸の中に、入っていきます。
ミツルギ様を先頭に、僕、アラクレイ、ウラカータの順番です。
おや、ミツルギ様の従者は、馬車の留守番をするそうです。
貴族の女性を一人にするっておかしくないですか?
騎士見習いだから、護衛の対象ではないということでしょうか?
疑問の眼差しを投げかけてみますが、ふるふると首を横に振って、拒絶の意志は固そうです。
ミツルギ様も、特に何とも思っていないようですが……。
旧邸と言っても、内部も非常にきれいな状態で保管されています。
玄関ホールに入れば明かりが灯り、閉め切ってあったはずなのに、空気もよどんだ気配がありません。
「ミツルギ様、どうしてここは旧邸なんですか? とても美しく維持されているように見えますが。」
「それはですね……。」
広い玄関ホールの半ばまで進んだところで、ミツルギ様がゆっくりと振り返ります。
背後からわずかな風を感じて振り返ると、音もなく、玄関の扉が閉じていくところでした。
バタ……ン。
ガチャリ。
「あ……」
「え?」
「今、ガチャって言いましたよね?」
ミツルギ様は、ニコニコと、笑っていらっしゃいます。
「驚かせてしまったら、すみません。でも、大丈夫ですよ。この邸宅の管理人が、悪戯好きなだけなので。」
えーと。
僕には、さっきから、甲高い笑い声のような叫びが、ずっと聞こえているんですが。
「クケケー! ボンクラお嬢が、誰を連れてきたんだぁ!
んんんー? 商人かぁ? また懲りもせず、屋敷を売り払おうとでもしてるのか……。怖い思いがぁ、したりねえ、ようだなあぁ!!」
あー……っと。
「アラモードさん、どうします? 割と面倒な精霊みたいなんですけど。」
「二人の前でいきなり何かするわけにも、いかんだろう。もうしばらく、このお嬢様に付き合うしかないんじゃねえか?」
「仕方ないですね。」
ウラカータさんも、見たり聞こえたりはしていないみたいですが、やはりおかしな気配を感じて警戒しているようです。
逆に、ミツルギ様は何も感じていないんでしょうか……?
「ミツルギ様、この屋敷には、何か棲んでいるのですか? 先ほど、管理人とおっしゃいましたね。」
「ふふ、そうなのです。残念ながら、姿も見せなければ、声も聞こえないのですけれどね。世話好きな管理人だったのですが、悪戯が過ぎて、私どもはこちらの家には住めなくなってしまったのです。」
いや、それ、悪戯と違うと思います。
「さ、剣の間に、参りましょう。」
スルスルと、奥の方へ進んでいってしまうミツルギ様です。
僕らも後を追いかけます。
階段を降り、扉を抜けて、また階段を降りて。
地下階に進入していくと、ダンジョンと呼ぶのが自然な感じの作りになってきました。
通路の行き止まりの扉は、また何か仕掛けがあるようです。
ミツルギ様がゴソゴソとしていると、鍵が開いたようです。
「この奥が、剣の間です。どうぞ。」
明かりの灯った扉の奥に進むと、僕達の足が止まりました。
剣が刺さっている、とかではなくて、これは、床から生えた結晶質の柱に、剣の柄のようなものが付いている、という表現の方が近い気がします。
ちなみに、結晶質の柱は、巨大な樽ぐらいの太さがあります。
それに、柱と言っても、たたき割って削り出されたかのように、荒々しく不規則な面で構成されています。
「これは……。アラモードさんなら、抜けますか?」
「いやいやいや。どこまでが刀身かも分からなねぇよ。」
ミツルギ様は、無造作に近づいていくと、柄を掴んで引っ張っています。
「御覧のようなありさまでして。初代の当主が、突き立てた剣だという伝来なのですが……」
「キャキャキャキャ!! 剣の方が目当てか? お前らに、初代様に肩を並べる覚悟があんのか? クキャキャ、あるわけねぇよなぁ!!」
お? 初代様、ですってよ。