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商談会を抜け出して

さて、僕は今、どこにいるでしょうかっ!


答えは…… 馬車の中、です!

土精家(テラリス)の旧邸へ、向かっています。


土精家は、その名の通り、主として土の精霊の力を宿した魔道具や術を使います。

土の精霊の本質は、凝集。

緻密に、小さく、固めて、堅く鍛え、硬く研ぎ澄ます……

いかにも、職人肌の家系ですね。


さて、なぜに僕が土精家のもとへ向かっているのか、そのわけは、半刻ほど前にさかのぼります。


土精家さんは、質実剛健の気風の持ち主。

今回の商談会は、いかに何でも石の魔力と対価が釣り合っていないこと、商談会の場が政治的に利用されていることなど、このような風潮は魔道具業界の正常な発展に取って宜しくないと、ボタクリエさんに苦情を申し立ててきました。


僕もボタクリエさんも、その通りだと思ってます。

どうしてこうなった、という残念感で一杯です。

ただ、他の参加者は、思ってはいても、ボタクリエさんの気分を損なうことを怖れて、なかなか言えなかったことでもあります。


その実直さに惹かれてお話を伺っていると、土精家にも、先祖伝来の魔道具が色々眠っているというじゃないですか。

流行り廃りではなく、ちゃんと中身を見ているんだと思うと、気が合いそうです。


で、元々土精家からも魔道具の取引の申し出があったんですが、何故に直接そちらに出向いているかというとですね、大変に由緒ある品だが「簡単には動かせない」魔道具があるというお話なんです。


「簡単には動かせない」


大きいとか、重いって話じゃないですよ。


今をときめくボタクリエ商会を馬鹿にしちゃいけません。


ボタクリエさんの名前を出せば、魔道装甲を扱う重荷役人達だって、あっという間に大勢集まっちゃいます。

一声かければ魔道荷車だって、すぐ手配されますし、重量物輸送用の装備もばっちりです。


今も、商談会終了後に運び出すために、着々と荷造りと積み込みが行われているはずです。

それに、移送中の警備についても、街道周辺の領主と調整済みだそうで。

商会としては、売り上げの一部でまかなえてしまうので、罪滅ぼしの気持ちも込めて、派手に警備してもらえばよいでしょう。


あ、経路にあたらない領地の方々からは恨めしそうにみられてましたけど、さすがに、ねぇ。


そして、例の品です。

ボタクリエ商会の依頼とあっても、簡単には運べない。

どういうことか、気になりますよね。


そんなわけで、つまらない商談会を抜け出して、品物が収められているという土精家の旧邸にお邪魔することになったのでした。


僕はボタクリエ商会の取引担当見習、ウラカータさんとアラモードが先輩役です。なんで二人ともついてくるのか謎ですが、土精家には多くの魔道具が遺されてきているそうなので、そういうことにしておきます。


僕たちの案内をしてくれているのは、土精家の三女のミツルギさんです。十代半ばのお姉さんで、やや地味な顔立ちですが、シンプルな剣士の格好がよく似合っています。


「ミツルギさんは、騎士団の見習いだそうですね。」


「はい。まだまだ未熟でして、この家の生まれでなければ、見習いにも採用されなかったんでしょうけれど。」


おや、ミツルギさんは、あまり自信を持てずにいるのでしょうか。


「お恥ずかしながら、私は付与術をほとんど使えないのです。五精家の者は、付与術が不得手というだけで落ちこぼれの烙印を押されてしまいます。

それで、剣の道に進んではみたのですが……。」


僕なんて、付与術をまったく使えませんけどね!

それにしても、初見の平民達に、ぶっちゃけすぎですよ、ミツルギさん。


「ミツルギさん、修業の道は、まだまだこれからなのでは?」


「それはそうなんですけど、見習いの同期達にはあっという間に差をつけられてしまって。

このままでは、私を合格にしてしまうと、他の見習いをふるい落とすこともできなくなるって教師が悩んでるのが伝わってきて……。」


いきなりガチのお悩み相談ですね。


「騎士に、なれなかったらどうなるんですか?」


「どこかに嫁に行かされるんでしょうけれど、私は美人でもないですし、華やかな振る舞いも苦手です。貴族よりは、商人や官僚のもとへ行くのが良かろうと言われまして……」


「そんなこんなで、今ここに送り込まれているというわけですか。」


「はい……。顔だけでも、売ってこいと……。」


土精家の方々、もうちょっと優しさとベールをこの娘さんに……!



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