第二会場にて
例の魔物達を討伐し、精霊石を回収したのではないか。
シュッツコイが、口にした新たな可能性に、皆が一斉に思案を巡らせる。
帝都周辺には、魔物の影も薄く、討伐を業とする冒険者も非常に少ない。
自然と、精霊石といえば外部から運び込まれるものと、他の者は思い込んでいた。
「確かに。討伐する力さえあれば、先日の魔物の群れは、むしろ絶好の狩りの機会だったやもしれません。その後、魔物の姿が目撃されていないこととも、符合します。」
「だが、有力な冒険者やハンターが活動しているという話も聞かぬな。討伐で得られた素材も、売りに出された様子はない。領主連中が、これほど騒いでいるのだ。名乗り出れば、褒賞も地位も思うままだろうに。」
「活動が秘匿されているがゆえに、人手を要する素材の解体や運搬は、断念せざるを得なかったのではないでしょうか。精霊石だけならば、回収もその後の現金化も容易です。」
「ちょっと待ってください、魔物の目撃情報は、かなり広範囲から上がってきています。討伐して回るにしても、複数のパーティーでなければ、地理的に無理があります。」
「ふむ。複数のパーティーが、別行動で魔物を討伐し、精霊石を回収していたとしよう。だが、それらの石は、最後にはすべて、ボタクリエ商会へまとめて売却されたことになる。とすると、活動は別々であったとしても、やはり一つの目的をもった集団だと考える方が自然だろう。」
「なんと……。高位の魔物を何十体と狩りまわるような強力な武装勢力が、密かに帝国内で活動しているということになりませんか……。」
帝室官房長官。政務大臣ソチモワール。ニングルム部隊長シュッツコイ。
この国の内政の中枢の一角であるはずの三人が、まったく把握していない武装勢力の存在。
大型の魔獣を狩るような部隊を複数運用できる規模でありながら、その姿を見せぬ隠蔽能力。
「魔王の、手の者か……。」
「イジュワール様程の存在を、手に掛けたのだ。生中な連中ではあるまい。」
先日の議論が、よみがえる。
「じゃが、魔王の手の者が、なぜ魔物を殺す? 魔王であれば、魔物を手駒にする術もあるのではないか?」
「では、魔王はいまだ復活していないのでは。復活をもくろむ者たちにまで、魔物を従える技があるとは限りますまい。」
「あるいは、魔物を呼び集めたものの、支配に至らず、やむなく処分したか……
いずれにせよ、情報が少なすぎる。このあたりの議論には、現段階で深入りすべきではなかろう。」
「そうじゃな。まずは判明している事実から検討すべきじゃろう。何者かは置くとして、とにかく、誰かがボタクリエ商会に精霊石を持ち込んだ。」
「ふむ、ボタクリエ商会の関与はどう見る?」
「商売人としては、出所はともかく、降って湧いた粒ぞろいの精霊石じゃ。持ち込まれただけ買い取って、盛大に商談会を開くのは、おかしなことではあるまい。」
「私もそう思います。後ろめたいことがあれば、このように目立つ催しを行うことなど、あり得ぬでしょう。精霊石ならば、魔道具に変えてしまえば、由来など普通には計りようがない。極端な話、盗品であると明らかであっても、取引さえ秘密裏に行えるのであれば、買い手には困らないでしょうな。」
そのとき、シュッツコイが、難しい顔をしてひとりごちているのに、官房長が気が付いた。
「ボタクリエ商会か……。」
「どうした、シュッツコイ殿。」
「我々は、先日の、倉庫街での事件の痕跡を追っていた。ボタクリエ商会は、例の破壊された倉庫の、事件直前までの持ち主だ。」