商談会、舞台袖
「あ、ボタクリエ様、一つお願いがあるのですが。」
ボタクリエさんはまだ呆けたままでしたが、この後もお仕事が詰まっているでしょう。
気付けの術を施しながら、頼みごとをしておきます。
「どこかの貴族が、私のことをボタクリエ商会に尋ねてくるかもしれません。その時は、私がボタクリエ商会で最近雇った、見習いの従業員であるということにしておいてください。」
「は、コルダ様が、わが商会の、ですか。かしこまりましたが……」
「大丈夫ですよ、たまたま知り合いにこの姿を見られてしまっただけで、ご迷惑をおかけするようなことはないと思います。用件があるようなら、いつもの宿に伝えてもらえば大丈夫です。」
「はぁ……。」
ヨロヨロとした足取りで小部屋を出ていったボタクリエさんを見送ります。
「知り合いに、ねぇ。お前の偽装を見抜くんだ、どうせただ者じゃないんだろ?」
「危ない人では、ないですよ。僕なんかよりよっぽど優等生で、付与術も天才的でした。今回気付かれたのは、何だかよく分からない偶然みたいですけど。」
「ご迷惑は、おかけしない……ね。
ま、今さらか…… 何もかも、な……」
アラクレイが、また眉間のシワを指でさすっています。
それ、最近、癖になってませんか?
「しっかし、この勢いで石をばらまいていったら、皆競って魔道具の武器を作ることになるぞ? それも、さしあたって使いどころのない壮大な空振りだ。魔道具愛好家のお前さんとしては、それでいいのか?」
「魔道具愛好家って……。」
僕の場合は、精霊の声が聞こえちゃうので、あまり無下にもできないってだけなんですけどね。
「大規模破壊兵器を、小型の兵器に置き換えているのだと思えば、世界の安定に貢献してませんかね……?」
「うーむ。使えない破壊兵器を抱えているのと、使える武器が拡散していく状況か……。どちらがマシかは、何とも言えんな……。
今日は街道の警備隊なんかが頑張ってるが、街中でも武装の需要が高まってるみたいだな。」
「そういえば、街の様子はどうだったんですか?」
「前に倉庫を剥奪かけただろ? どうやら、あのときにも、ダンジョンコアの力に反応して、近場の魔物が集まってたみたいだぞ。」
「え、そうなんですか。」
「ただ、建物を解体しただけだからな。ダンジョンが作られたわけじゃないと知って、魔物達は散っていったんだろう。街中にまで入ってきたのもいたみたいだが、衛兵が対応できるレベルで、大した被害は無かったらしい。」
「それなら良かったです。」
「何もできなかった街道の警備隊に比べれば、帝都内の警備部隊は成果を上げてるわけだが、そもそも集まった魔物の群れの規模が違うわな……。」
「なんせ、竜まで出てきましたからね……」
二人して、少し意識を浮遊させてしまいました。
「人類に被害がなかったことで幸いとしておこう。
そんなわけで、周辺の都市の連中と比べると、帝都の住人はそれほど大騒ぎしていなかったんだ。が、今日のこの騒ぎが伝われば、帝都の住人の中にも、備えておこうと考える連中は出てくるだろうな。」
「精霊石や魔道具の相場が暴騰するとなると、一儲けを企んで危機感を煽る輩もいるでしょうね。」
「ま、使えない魔道具を回収して、使える魔道具として世に出し直す。お前さんの考えた流れには沿ってるんだけどな。
間違っちゃいない、はずなんだけどな……。
しかし、倉庫の分の石は、高位と言っても家具や調度品だろう? 基本的には守りや祝福に向けられた力のはずだから、まあいいとして、今度集まってくる魔道兵器の石は、どうするんだよ。」
「……後でゆっくり考えますよぅ。」
「くっ。やはりそうなるのか……。
悪意はない、悪意はないんだが…… 嫌な予感が、耳元にからみついて離れないぜ……。」
そうこうしている間にも、二幕目は進行していました。