再会のリュシーナ
僕は諦めて、足を止めました。
サー・エリクの変身薬は、精霊術ではない力で髪や肌の色を変えています。看破の術や精霊の力を退ける術では、解除できません。
認識偽装の術は、別人に見えるよう意識に働きかけます。
時間をかけて術式を作りこみましたから、そんじょそこらの術や魔道具では、コーディウスの姿だとは思わないはずです。
実家の人間が目の前にいても分からないだろうと、自信を持っていたのに。
なぜ、気づかれてしまったんでしょう……。
「ええと、お久しぶりです。逃げたりしませんから、大声を出さないでください。周りの人たちにバレてしまうと、遠くへ行かなくてはなりません……。」
改めて、リュシーナと向かい合います。
立ち上がったリュシーナは、記憶の中より、少し背が高くなっています。
最後に会ったのは、一昨年だったでしょうか?
髪も長くなって、少し大人っぽく編み込まれて、つややかに流れています。
「また少し、おきれいになられましたね、リュシーナさま。そのドレスも、よくお似合いですよ。」
「あなた、コーディウスなの?」
あれ?
「え、見抜いたんじゃないんですか?」
「いや、あなた、コーディウスじゃないでしょう……? え?」
おや、認識偽装は機能してるみたいですね。
「コーディウスじゃないのに、コーディウス?
……まさか、あなた、剥奪の術って、他人の肉体を奪う術だったの……!?
そんなの、禁術でしょうに…… そっか、それであんな風に、突然死んだことにされちゃったのね……。」
「いやいや、待ってください、そんな危ない術は使ってませんよ。この姿は単なる偽装です。ちゃんと、コーディウスに戻れますよ。
とにかく、ここではちょっと目立ってしまうので、どこかほかの場所で、後でゆっくりお話しましょう。それに、今、僕は仕事中でして。」
「そういえば、その格好。商会で働いているの?」
「まあ、そんなところです。ボタクリエさんには、お世話になってますよ。いろいろありまして、僕は実家にはもう帰れないので。」
「はー。びっくりしちゃった。」
「いえ、びっくりしたのはこちらですよ。どうして僕だと分かったんですか?」
「分かったっていうか、そのティアラを見てたときの仕草が、あの時にそっくりだったから……」
仕草、ですか? あの時? 最近、お会いしたことなどありましたっけ?
うーん、どこかの催しで一緒だったのか、思い出せませんし、気づいていなかったということもあり得ますが、どちらにしろ失礼なお話です。
「そういえば、リュシーナさま、なんだか、ずいぶん砕けた口調ですね。貴族のお嬢様が、そんな風でいいんですか?」
「あ、これ? ふふふ、もちろん、いつもは違うわよ。今だけ、今だけ。驚いたし、おど、おど……。」
ん?
リュシーナは、ぽろぽろと涙を流しています。
え? え? 何ですか?
「生きてた…… コーディウスが、生きてた……。」
顔を両手で覆って、呟いています。
何だか分かりませんが、僕の知らないところで事件が起こっていたようです。
それはともかく、もう、休憩時間が終わりかけです。
「リュシーナさま、おうちの方が、もう戻ってきますよ。ええと、ボタクリエ商会で、コルダという名で働いています。精霊石か魔道具の取引の話だと言えば、つないでもらえると思います。それじゃ、また後で。」
借りた制服に入っていたハンカチを押し付けて、立ち去ります。
衝立の外に出たとたん、リュシーナの家族と思われる貴族とお供が、ちょうどやってきました。
いやあ、危ないところでした。
水精家のお嬢様を泣かせたとなったら、どんな処分になるか分かりませんよ。
舞台裏に戻ると、アラクレイがじろりと睨んできました。
「またウロウロしてからに。探し物は見つかったのか?」
「探し物……、いい話は、見つかりませんでしたね。がっかりですよ。」
思いもかけない人に、見つかってしまいましたが。
……百数十話ぶりの、ヒロインさんです。
どうしてこうなっ(以下略