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お客さまの声

本日二話目の投稿です。

今日の僕は、スタッフの間に入って違和感のない服を借りています。

これなら、近づいても大丈夫なんでは?


そこら辺に置いてあった書類の束を拝借して、客席の方へ降りていきます。

あとでちゃんと返しますからね、泥棒じゃないですよ。


事務連絡の相手を探す振りをして、貴族たちの様子をうかがうとしましょう……。

お仕事、お仕事、忙しいですねー。


舞台に近い前列は、高位のお貴族様です。

さすがにお付きの人も厳重ですし、そもそも立ち話のように品のないことはしません。

他からの視界も少し遮るような感じで衝立もあるので、立ち聞きなど目立ちそうです。


そこはスルーして、中ほどの壁際の、お話が盛り上がっていそうな集団を目指します。

やや硬めの制服をまとった、軍事部門の方たちですね。


「ヒガッシュ領の連中め、よくもああ、小賢しい工作を考えつくものよ!」


「そうは言っても、我々西の中継都市としても、何か対抗できるアピールをしないわけにはいくまいて。」


「しかし、私が託された資金では、とても今日の相場で魔道具を揃えることなぞ叶わんぞ。」


「それよ。我々は、ヒガッシュに比べれば小さな都市に過ぎない。だが、羊の群れとて、オオカミ一匹にやられるわけではないことを見せてやろう。皆の資金を集めて、一点で勝負するのだ。」


「ならば、群舞のように脚本を書かせるか。西方の街道都市は、連携をもって帝国の商業に貢献しているという部分を強調するのだ。そうすれば、ヒガッシュの姑息さ、独善が浮き上がって見えてこよう。」


なんだか、げんなりするようなお話をしているばかりでした。

魔道具っていうのは、もっとこう、静かで、時空を超えて語り合うような、深淵を体現したような存在なんですよ……。


目当ての貴族がいなかった風を装って、別の集団に向かいます。

お、女性が集まっていますね。


今日も、もともとはパーティー向けの飾りや贈り物向けの品物を商談のメインに考えていたそうなんです。


どんな魔道具で、どんな人の気持ちを振り向かせるのか。

素敵な魔道具、思い出を作る魔道具、心を伝える魔道具。

浪漫があるじゃないですか。


「もー、やめてほしいわよねー、警備隊とか領主軍とか、空気読めってのよー。」


「ねー、あんな公金連中が買い占めてたら、誰の景気がいいかも分かんないじゃない。今のと切れそうだから、次の目当て、付けとこうと思ってたのにー。」


「私も、この石を買ってもらおうと思ってたのに、相場がおかしいもんだから、あいつ、腰が引けちゃってさー。約束したよね?って目線送ったのに、バックレやがったのよー。もう、別のに行こうかなー。」


浪漫なんて無かった!


何かが、何かが間違ってますよ、ボタクリエさん……

いや、ボタクリエさんのもとには、凄い額のお金が集まってそうですけれど。


肩を落として、楽屋裏へ戻ることにします。


舞台前の貴賓席のそばを通りかかると、魔道具の精霊の声が聞こえてきました。

さすが、高位の貴族だけあって、意思を持つレベルの魔道具を持ち出して使っているのですね。


しかも、精霊同士で会話しています。


「大した石でもないのに、人間達はなんでこんなに騒いでるんだろうねぇ。」

「ようやく僕らを大事にする気になったんならいいんだけど、そんな雰囲気でもないわねぇ。」


へー。

大物感のある、精霊です。

どんな形の魔道具なんでしょう。

少しだけ興味が湧いて、通り過ぎざまに衝立のすきまから、ちらっとのぞいてみます。


あれ? 

テーブルの上に置いてある、小さなティアラの魔道具。

そこから、声が聞こえます。

一つの魔道具から、二つの声が。


え、なんで?

魔道具は、いうなれば精霊が姿を変えたもの。

一つの魔道具に、二つの精霊が入ることなんて……

思わず、その魔道具をじっと観察してしまいます。


「え……、コーディウス……?」


「へ?」


目をやると、そこには、可憐なドレスの女の子が、優雅に腰かけていました。


リュ、リュシーナさま!


口にしかけて、慌てて踵を返します。


「し、失礼しましたぁ!」


「ちょっと! 待って、待ちなさいよ!!」


なんで? なんで分かるの? 髪も肌も瞳も色を変えて、強力な認識偽装も発動させてるんですよ。

別人にしか、見えないはずなのに!?


「立ち止まらないと、大声出すわよ!」


もうすでに、結構大きな声です、リュシーナお嬢さま……


僕は諦めて、足を止めました。



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