夢魔の一族の力
スミは普通の人間に見えます。
夢魔とはなかなかいかがわしい響きですが、むしろ誇りを持っているようなので、聞いて欲しいのかもしれません。
「夢魔の一族ですか。スミ、貴女は、そのたった独りの生き残りなのですね。」
「ここにいるのが一人ってだけよ。勝手に殺さないでよね。
夢魔の一族は、この島を代々管理する者。私は、その留守を預かる責任者というわけ。」
責任者ですか。
「さっきは、ミステレンの後ろに隠れていませんでしたか?」
「ミステレン、さん。」
口を尖らせて、訂正してきました。
「あ、はい。ミステレンさんに、隠れてませんでしたか?」
「違うわ」
「と言いますと」
「隠れていたんじゃないの。守ってもらっていたの。」
「あ、はい。」
「あんたには、大事なことを言っておく。」
「あ、はい。」
「私は、可愛い。特に、ミステレンの前では。」
ちょっと意識が浮遊しましたが、何とか着地できました。
「……はい。」
「それが真実であり事実であるよう、あんたも振る舞いなさい。」
分かりません。
「えーと。こういう会話のことを、内緒にしておけばいいってことですか?」
「当たり前でしょう。でも、それだけじゃダメよ。ちゃんと努力もしてもらわないと。」
やっぱり、分かりません。
「具体的には、何をしたらよいのでしょう……?」
「それを考えるのは、貴方の仕事ね。」
……なぐってやろうかと少し思いましたが、暴力では解決しない場面です。話を変えてしまいましょう。
「夢魔の一族には、どういう力があるんですか。」
「私のことが、気になる?」
「気になると言いますか、知っておいた方が仕事の役に立つのではないでしょうか。」
「貴方、つまらないわね。」
「……夢魔の一族は、そんな話ばかりしているんですか?」
がんばって、もう一度方向転換をこころみます。
「ふん。そんなわけないでしょう。夢魔の一族の力はね、精霊の声を聞けるのよ。」
「えっ!? 精霊石の、ですか?」
僕の驚いた顔を見て、満足そうに続けました。
「道具に封じられた後でも、よ。」
驚きました。
夢魔の一族が、僕と同じ力を持っているなんて!
これは、気を付けなければいけません。
うかつに精霊に話しかけたら、その精霊が、僕のことをスミにしゃべってしまうかもしれないのです。
慎重に、ことを運ぶ必要がありますね……