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目撃談

本日、二投稿目です。

帝都東方約二十五キロの地方都市、ヒガッシュ。

帝都からの主要街道の一つの中継地点であり、徒歩の旅人や足の遅い荷馬車にとっては、帝都から一日の距離に当たる。


東西の大動脈であると同時に帝国北方からの街道ともここで合流するため、帝都周辺の交通の三分の一がこの都市を経由するという結節点となっている。


商人らでにぎわう宿のロビーでは、興奮した様子のやり取りが続いていた。


「お前も聞いたか! 俺が聞いたのは、森の奥で暮らしてるはずの屍食狐の群れが、一本の木も生えていない草地をギャアギャア騒ぎながら走り抜けていたっていうんだ。」


「俺は、この目で見ちまったんだ。三日前か、バカでかい土蜘蛛が三匹、連れ立って街道を走り抜けていくのを……。一体、どうなっているんだ……。」


話題は、数日前に様々な方面の街道で目撃された、魔獣や魔虫、名前さえ知られぬ奇怪な者どもの目撃談である。

あまりに突飛な内容を含むため、魔獣や魔虫の発生や大移動などではなく、むしろ幻覚を引き起こす別の現象という見方さえ、ある程度の支持を得ている。


とはいえ、大型の魔獣に踏みつぶされた、群れの移動に巻き込まれて荷馬が狂乱して逃げ去った、夜のキャンプ地に亡霊の群れが現れて、荷を捨てて逃げざるを得なかったなど、副次的な被害の事例は枚挙にいとまがなく、当事者としては幻だから大丈夫などと言っていられる状況でもなかった。


帝都から出立したばかりの者たちにとっては、この先に待ち受ける危険を図るうえで、その先の情報は喉から手が出るほど欲しいものであった。

また、無事に護衛の任を果たした冒険者や傭兵などには、ここから先には危険はないのだから、こちらの護衛を受けてくれないかという緊急の依頼が殺到している。


自然、北方や東方からの商人たちを、帝都からの商人たちが引き留めて取り囲むという図式が方々で発生し、今来たばかりで情報を欲している商人と、いい加減切り上げて出立したい商人たちとの間で、衝突寸前の小競り合いまで起こっている始末であった。


「それにしても、魔獣や魔虫など、この辺りでは、ほとんど目撃例さえないだろう?」


「ああ、俺ももう五年ほどこの街道を利用しているが、魔獣なんざ注意喚起さえ見たことがないぜ。盗賊の出没や悪天候の情報なんかは、こまめに情報が出ていたから、ここの領主はしっかり仕事してるって印象なんだがな。」


「すると、同時多発で突然の事件ってことは確かなのか……」


「一体、何が起こってやがるんだ……」


「この有様じゃ、今からまともな護衛を見つけるのは骨が折れるぜ?」


「見つけたとしても、経費の上積みを後で請求できるかどうか……」


「未開地の領土では、魔獣の大量発生への対応も、領主の重要な任務だっていうぜ。」


「そうなると、領主様の対応を期待したいところだがな……。

街道警備隊の出動はどうなってるんだ? あの連中に、魔獣を見たことがあるような兵士が、どれだけいるのかも分からんが……」


すでに仕事を請けてしまっており、東方や北方へ向かわざるを得ない商人たちは、不安そうに語り合うのであった。


衛兵詰所や都市長のところにも、当然情報は上がっている。

だが、あまりにも広範囲、多数の目撃情報に、有効な対策を想定することさえできずにいた。


しかも、一斉に目撃情報があって以降は、かき消されたかのように、追加の目撃情報は生じていないのである。


「竜を見たという、声すら上がっております……。」


「一体、どこへ向かっていったのか……」


「これから向かうとなると、一体何を、捜索すればよいのでしょうか……。我々は、一週間前に魔獣が歩いた形跡を荒野で追うなどという訓練を、受けておりません……。」


「亡霊や不死の魔物という話もあります。教会勢の協力を、もっと積極的に仰ぐべきでは……」


「魔獣達に対抗せよというのであれば、まずは装備が必要であろう……」


「この時勢に、簡単に魔道具が調達できるわけがなかろう。」


「しかし、このままでは領主の統治能力を問われかねませんぞ!」


その頃、同じような議論が、帝都周辺の各都市で沸き起こっていたのであった……。


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