取引の成立
風穴に代わり、魔道具の末を引き受ける。
そこが、いかなる場所であるのか、まだボタクリエには想像もつかない。
だが、この話を受ければ、自らの目で見ることがかなうという。
「ぜひ、その場所へ……、お願いします。」
「片道で三日もかかるので、ある程度、まとまった量を運び込みたいところです。魔道具の回収は、どれくらい見込めますか。」
「……精霊石のある限り、集めてみせましょう。」
「なんと! さすがボタクリエ様、頼りになります。それでは、こちらを預けておきます。」
コルダは、迷いのない手つきで、鞄から柔らかな革でできた袋を取り出した。
「百二十の石を入れてあります。大物の魔道具ならば一対一、中の上の魔道具で一対三といったところでしょうか。こまかな点は、お任せします。
荷馬車の仕立ても、合わせてお願いします。商談会の二、三日後には、こちらを出発できるとよいですね。」
すべては、流れの中か。
ボタクリエは、自分が冷たい水の砂浜に立ち尽くしているような、そんな幻想を感じていた。
足元から体温が奪われて行き、その下にあるはずの砂も、さらさらと波で運び去られていく。
ゆっくりと、ゆっくりと、砂の中にうずもれていくような、そんな幻覚を。
コルダの差しのべる手に対し、ボタクリエはゆっくりとしか手を差し出せなかった。
それでも、コルダは、しっかりとボタクリエの手を握るのだった。
送り出すために連れ立って玄関を出ると、表では、門番とアラモードが世間話を交わしていた。
「そういえば、アラモード様は、コルダ様の側に控えていなくてよろしかったのですか?」
「ああ、アラモードさんには街の様子を見てもらっています。私どもも、四六時中一緒ではさすがに息が詰まりますしね。それでは、商談会の当日に、またお会いしましょう。」
深々と礼をしてコルダとアラモードの乗った馬車を送り出し、廊下の陰から現れたウラカータに目をやる。
「お前に精霊石を十粒運ぶよう預けたら、どのように警護する。」
「は。念のために、供の者を一人連れていきたいところですな。」
「五十粒であれば、どうだ。」
「五十ですか。それほどの財産となれば、腕利きの護衛を三人ずつ二組は用意しますな。」
「百を超えたらどうだ。」
「百、ですか……。用件にもよりますが、国家間の取引のレベルと考えますと、軍の部隊を護衛に付けるべきかと。」
「それを一人で持ち歩く。コルダ、あの男自身も、単なる商人などではあり得ないということか……」
「お? おい、コーダ。目の色、おかしくなってるぞ。」
「コーダって、誰ですか。
そういえば、サー・エリクの変装ポーション、昨晩飲まなきゃならないタイミングでした。効果が消えかけると、どんなふうに見えるんです?」
「なんか、瞳が二重に重なって見えるな、妖精や魔族みたいで、ちょっと不気味だな。」
「商談会では変装のレベルもあげなきゃならないんで、気を付けないといけませんねー。」