罪と罰
工房の隅にうずくまるケーヴィンに、やさしく話しかけます。
「それにしても、昨日は、一体何があったんですか?」
最初は口を開くまでしばらくかかりましたが、僕が淫魔の死骸をダンジョンの壁に押し込んで見えないようにしたら、なんとか話し始めてくれました。
ちなみに、死んだ生き物やゴミみたいなものは、時間が経てばダンジョンの壁が飲み込んでいく仕組みがあります。
今回は、僕も持ってる管理権限を使って、ちょっと早めに取り込んでもらいました。
消化するには、しばらくかかるみたいです……。
「ああ、アラクレイや村長と一緒に、魔物の群れのところに行っただろ。そしたら、パレードよろしく歩いているうちに、見たところ凶暴でも肉食でもなさそうなのに、なんか匂いを嗅ぎながら俺に近づいてくる奴らがいたんだよ。」
「へぇ。」
「なんだ、お前らって問いただしたら、俺から精霊の匂いがする、それもとんでもない数だってな。
あんな魔物見るのは初めてだし、正直、俺もビビってた。
なぜか、なめられたらまずいと思っちまったんだよ。」
「それで。」
「お前らも、悪さすると石に変えて閉じ込めるぞ、って。」
「言っちゃったんですか。」
「そしたら、奴ら、疑いやがるの。」
「はあ。そうでしょうね。魔物を捕まえて精霊石に変えるなんて術、そうはないでしょうね。」
「もう勢いとハッタリで行くしかねぇじゃん。で、懐には、俺が作った例の箱があったわけだ。」
「僕らに見せてくれた、あれですか。」
「ちょこっと開けて見せてだな、ほれ、この『黒き匣』の力からは、逃れられんぞぉ、ってやったわけだ。」
どう考えても面倒な展開しか思い浮かびません。
「それから。」
「みんな平伏して、ははーってなもんよ。
そんでもって、導師ケーヴィンよ、貴方はいったいどれ程の精霊を捕らえてきたのですか、と。」
「それで、三百七十ニ、ですか。精霊石の存在を隠すために、地下工房を作り始めた気がしますけどね。」
「こんだけ大騒ぎしておいて、今さら何もない振りして元通りの暮らしなんかできるかよ!」
そこは、僕も強く言えないところですね……
「精霊石を狙う魔物も、中にはいるわけですよね。」
「暴れたら、ダンジョンに入れてもらえなくなるからな、ここでおとなしく列を作って待ってる意味がなくなっちまう。暴れるわけにはいかんだろうよ。」
なんという他力本願。
妖精だの魔物だのって、そんなに後先考えてないことも多そうですけどね。
「そんでもって、付与術に興味持ったり、魔道具作るところを見てみたいとか言い出す奴が出てきてだな。」
「工房に連れてくることにしたんですか?」
「いや、まだ工房は作り始めたばかりだから、お前らを入れるような場所はねぇって、ちゃんと断ったさ。」
「断ったんですか。」
「……三日後にはできあがるって、言ってやったけどな。」
なんか、目先だけの対応ですね。
「大体の連中は、それでいったん村長のダンジョンに向かったんだがよ。
なんか、小鬼を連れた妖精の女の子がな、私にはもう帰るところがないとか言ってだな、フラりと倒れちまったんだ。
魔力が足りないって言われて、俺は、仕方なく、人助けと思って、……。」
「あー、はい。あとはもういいです。」
聞きたくもないので放置です。
むしろ、罪を犯し、罰を受けたということです。
そこ、思い出してニヤニヤしない!
因果応報!
「あの小鬼はどうするんです? あの淫魔がやられても、消えてしまうわけじゃなかったみたいですけど。」
「あ、あれか? 被害者って意味では仲間かもしれんな。雑用にでも使ってやるか。」
ようやく調子が戻ってきたので、ケーヴィンが立ち上がります。
上に戻ると、小鬼がずだ袋を持って、金目のものを漁っているところが目に入ってきました。
「ギャギャギャー!」
ニヤッとしたかと思うと、小鬼はあっという間に走り去っていきました。
「ち、チキショウ、どいつもこいつも、馬鹿にしやがって……」
ケーヴィンは、両手を手について伏しています。
「三日後ってことは、明後日になったら、また大勢やって来るんですよね?」
「……弟子なんぞ、取ってたまるかー!」
「朝ごはん、ご馳走しますよ……。」