おやすみなさい、長老さん
ううーん。村長さん、ちょっとお疲れの様子です。
「儂は… 儂は…… 何を招いてしまったんだろうか…… 何を引き起こしてしまったんだろうか……
誰か、誰か教えてくれんかのう。どこまでが現実で、どこからが悪夢なのか…… それとも、全部まとめて、悪夢なのか……」
錯乱しているようで、何を言っているか、よく分かりませんね。
ダンジョンマスターとしては、良くない状態です。
厨房に行ってみます。
うん、百人分の炊事ができる、立派な厨房です。
食材はありませんが、食器の類もそろっていますね。
棚から、コップを一つ、取り出します。
もう一つ。これは、サー・エリクの銅のコップです。
「サー・エリク、あの者の心を落ち着ける薬湯を、作っていただけませんか。」
蛇口からサー・エリクのコップに水を注いで、お願いします。
「お安い御用じゃ。ほい。」
「ありがとうございます。」
銅のコップの中の水が、あっという間に薄い青緑色の液体に変わっています。
もう一つのコップに移して、村長のもとへ持っていきます。
「村長さん、お疲れさまでした。これを飲んで、少し休んでください。」
避難所用に作ったベッドの一つに、連れていきます。
ベッドに座らせて薬湯を飲ませると、長い長い溜息を一つついてから、村長さんは眠ってしまいました。
「これで、気持ちもほぐれるじゃろう。目が覚めたときには、頭もすっきり、このダンジョンの現実も受け入れているはずじゃ。」
流石は、サー・エリク。
「アラクレイも、飲みますか? 疲れが取れる、薬湯ですよ。」
「……いや、いい。」
「そうですか。アラクレイさんも、悩みとか、あるんじゃないですか。飲んだら楽になりますから、いつでも言ってくださいね。
あれ? そういえば、ケーヴィンさんは、どうしたんですか?」
「ケーヴィンは、あいつに興味を持った連中を連れて、向こうに行ったよ。」
「お、さっそくダンジョンマスターとして働いてるんですね。魔獣をスカウトしたんですか。」
「うーん、スカウトっつうか、『三百七十ニ柱の精霊を支配する人の形をした悪魔』とか呼ばれて、火蜥蜴だの土蜘蛛だのに平伏されてたな……。」
そういえば、精霊石を預けたままでしたね。
人気者で、何よりです。
僕なんて、誰も近づいてきませんよ。
ふん。
「ケーヴィンなら、腐りかけの死体とだって上手にやれますよ、きっと。
さて、いい加減、お腹が空いたんですけど、どこか酒場にでも行きましょうか。」
「……ついさっきまで、村の中を、何百匹もの魔物やら亡霊やらが通り抜けていたんだぞ。普通の店が、やってるわけないだろぉ!」
あれぇ?