あらゆる魔物の住まう処
本日二投稿目です。
村長が、ゲートの脇に立ってゆっくりと奥を指し示すと、無数の獣の群れが、粛々と列をなしてゲートの中へと進んでいきます。
何かの神話で読んだことがあるような風景です。
ありとあらゆる地上の生物たちが、地を覆う魔毒の氾濫を避けて、天を行く巨大な船に乗り込むという場面でしたか。
ここでは、常ならば人とは交わらぬ生物たちが、地下へと降りていきます。
村長は、なんだか生きる屍のような風貌になっています。
やはり、大きな力を手に入れたんですから、多少の犠牲はやむを得ないですね。
虎穴に入らずんば虎子を得ず、と言いますよ。
それはそうと、行列の後になるほど、何だか巨大な魔獣や高位の存在になっていきます。
その爪で触れただけで普通の人間は死んでしまいそうな暗い色の肉食獣やら、禍々しい亡霊のようなものをたくさん引き連れた魔導士風の骸骨やら、輝く冷気を帯びた鎧をまとった人型の精霊の一団やら。
「なんだか、だんだん凄い面子になってませんか?」
アビスマリアさんは言います。
「あれだけのダンジョンコアの力を使ったら、近隣の魔的存在すべてに対して、召集の狼煙を挙げたようなものよ。
言っとくけど、普通に集めていったら、数百年分の精霊の力よ? それを一発で使って見せたんだから、そりゃあもう、竜だって中をのぞいてみたくなるわよ。」
竜って。そんな冗談、笑えませんよ。
口元をゆがめて、外への通路を振り返って見た僕の視界に入ってきたのは。
やだなあ、目が合っちゃいましたよ。
大きくて黄色い瞳。
周囲の風景が陽炎のように揺らぐほどの魔力を立ち上らせる竜が、通路の中に首まで突っ込んで、動けなくなっているところでした。
あ、はい。
通路を広げますので、少々お待ちください。
流石の僕も、ギクシャクと木人形のように歩いてゲートの横、村長の脇に並びます。
どうぞ、こちらへお進みください。
アビスマリアさん、なんて言ってましたっけ。
ダンジョンには魔素が湧く、魔素で魔獣は強くなったり、繁殖できるようになる…… んでしたっけ。
フロイデさん、あなたの王国は、一体どこを目指しているんでしょうか……
精霊の里へ最後の竜を送り込むと、僕は、そっとゲートを閉じました。