村長はダンジョンマスター
村長さんのところに、戻ってきました。
歩いてくる間に、僕は腹をくくりました。
アビスマリアさん、あのダンジョンは、僕がちゃんと残してみせます!
「村長さん、お話があります。まず、村の外に集まっている魔獣や魔虫は、村の人たちには害を及ぼしません。ですが、この村は、あのたくさんの獣たちと、この先も付き合っていく必要があります。」
村長さん、僕、アラクレイとケーヴィンの四人で、屋敷の地下のダンジョンに入っていきます。
もういい年の村長さんですが、先ほどから、急に広い場所に置かれた小動物のように動揺しています。
怪物の群れに、突如現れた地下の巨大な建物、平和な村にとっては晴天のへきれきすぎるでしょう。
ダンジョンの力で、少しでも精神が安定するといいですね。うんうん。
「実は、この村の地下には、はるか以前からダンジョンが存在していました。この一角は、そのダンジョンの入り口に位置しており、ダンジョンへの出入りを管理していた人々が、詰め所として使っていた空間なのです。」
はい、村長さんの屋敷より、明らかに高級感のある作りとなっております。
「今、ダンジョンは永い眠りから目を覚ましたところです。目を覚ましたダンジョンと魔獣たちは、本能によって引き合っているのです。魔獣や魔虫がウロウロしていては、村人はおちおち野良仕事もできないでしょう。ただし、魔獣たちと村人が共存できる方法が、あります。」
「わ、私どもは、ど、どうすれば……」
「まず、地下のダンジョンの中に、外の魔獣たちを迎え入れます。そして、村長がダンジョンの主となって魔獣たちを支配し、村人を傷つけたりしないよう命令するのです。その後は、ダンジョンの管理を適切に行っていけば、村人は今まで通りの暮らしを取り戻すことができるはずです。」
「ダ、ダンジョンの……主? 私が? 」
人間の目って、本当に白とか黒とかキョロキョロと変わったりするものなんですね。
アラクレイとケーヴィンは、腕を組んで動きを止めたまま、斜め上を見つめています。
「今ならば、難しいことはありません。ダンジョンは、目覚めたばかりです。生まれたばかりの鳥のヒナのようなものです。僕の言うとおりにするだけで、大丈夫ですから……」
村長さんの肩に手を置いて、アビスマリアさんの力を発動させます。
「さあ、『はい』と言うだけですから。いいですね。応じなかったら、外の魔獣たちは、今のままですよ……」
「は、はい……。」
「はい! ご契約、頂きました!」
アビスマリアさんが、一瞬強い光を放ったかと思うと、村長さんの体をほのかな光が包みました。
これで、ダンジョンマスターとしての権限を持ったそうです。
「それでは、その力を発揮してみましょう。外の魔獣達に、従うように命じてみてください。従うようなら、村の周りをぐるっと一周して、ここに連れてくるんです。
僕は、中のダンジョンに通じる道を、用意しておきますから。アラクレイさん、ケーヴィンさん、一緒に行ってあげてください。」
三人を外に送り出すと、僕は急いで避難所の地下に空間を広げ始めます。
「アビスマリアさん、とにかく広く、魔獣や魔虫や色々なもの達があまり争わずに暮らせる場所にしたいんですけど。」
「広くするのはいいとして、あれだけ色々なものを一緒に住まわせるとなると、野外型のダンジョンね。色々な地形を組み合わせたような。ただ、あたしはあんまり植物とか小さな生き物は上手く扱えないのよね……。」
「この精霊の、力を借りるってのはどうでしょう。」
僕は、フロイデから受け取った、種の石を取り出しました。
「へえ、珍しい精霊ね。植物を魔道具化して……融合体なの?
うん、この子なら、ダンジョンを管理するだけじゃなくて、少しずつ拡張していくこともできるはず。いいじゃない、村長さんは地上とのやり取りの面倒を見てもらって、下の世界のことはこの子に任せるってことで。」
「それでは、さっそく。」
突貫工事もいいところですが、小粒な魔石を手のひら一杯握りしめて、行きます!
どこまでも広がれ、土の中の平原よ!!
朝焼けの空のごとくに、輝け、地底の天よ!!
フロイデ、君の望む場所を、自らで現わしてごらんよ!!
アビスマリアさん、思いっきりやっちゃってください!!!
そして、世界は光に満たされました。