風穴の管理者たち
最上層にあるのはもう力を失った魔道具で、はっきりした言葉を語るような精霊は、いないようです。
下層になるほど、高位のものが置かれているのでしょうか。
風穴のおく深く、地の底の方から、ざわめきのようなものが、聞こえてくるのです。
「イーオットさん、ここにある魔道具は、最後はどうなるんですか?」
「危険がなくなれば、分解して素材を回収しますよ。価値の高い金属や魔獣の部位でできていることも多いですから。」
「危険が、なくなるものなのですか?」
「この風穴は、周囲から魔力を吸い集めて、地下深くに放流する仕組みを持っています。だから、風穴の中の大気にも周囲の土にも、ほとんど魔力が含まれていません。
魔道具は、魔力を供給されなければ、やがて中の精霊も力を失います。」
アラクレイが続ける。
「力が無くなっちまえば、バラしても問題無いってことさ。」
ひたすら精霊を飢えさせるってことですか!?
「それって、中には反抗する精霊とか、いませんか?」
「もちろん、魔道具ごとに扱いは色々です。それは、我々が順番に教えていきますから。
どの魔道具にどんな応対が必要か、それを覚えることがこの仕事の始まりでもあり、すべてと言ってもいいくらいなんです。」
らせん階段を下りていくと、大人と子供の二人の人影が見えてきました。
「ミステレン、スミ。コーダ君を、お連れしたぞ。
コーダ君、このミステレンという男が、君を連れてきたんだ。」
「コーダ君、私はミステレン。これも何かのエンだ、一緒に仕事ができることを期待しているよ。
こっちはスミ。君と同じくらいの年か? 愛想の無い奴だが、悪い子ではない。仲良くやってくれ。」
ミステレンは、眼鏡をかけて、とても優しそうな三十路くらいの男です。
きっと、怪我をした動物や行き倒れの子どもを、見捨てられない性格なのでしょう。
「ミステレンさん、行き倒れのところを助けていただき、ありがとうございました。この恩を返せるよう、がんばります。」
スミと呼ばれた子どもも気になります。
ミステレンと同じような、地味な厚手の服に、サラサラとした黒い髪。
かわいらしい顔だちの女の子ですが、ミステレンの後ろに隠れて、目も合わせません。
明らかに話しかけるなというふんいきです。
「こんにちは、スミさん。素敵な黒髪ですね。」
ジロリと、にらまれました。
このメンバーが、風穴の管理者なのですね。