地下工房作り
ケーヴィンの工房なので、ケーヴィンが使いやすいように作るべきでしょう。
設計図のようなちゃんとしたイメージを用意しておけば、アビスマリアさん単独で作業を進められるみたいですが、今回はいきなりなうえに完成形も未定です。
ケーヴィンが、手探りでアビスマリアさんの力を使っていくことになりました。
アビスマリアさんの精霊石をケーヴィンに渡します。
「こ、これが奈落の聖女か……。俺の探知じゃ、飽和しきって何が何だか分からんレベルの力だぜ……。」
「さ、さ、始めましょうか。」
ワクワクしますね。
ケーヴィンの、小汚い小屋のタンス脇に、地下室への入り口ですよ。
「よいか。では始めるぞ。」
アビスマリアさんが、黒く変色します。
吸い込まれるような漆黒の中に星を散りばめたような、輝き。
これが、ダンジョンコアの力なんですねー。
床にスルスルと穴が開いていき、アビスマリアさんを懐に抱きかかえたケーヴィンが地下に降りていきます。
「おー。」
アラクレイも、興味津々です。
二人して、後を追って降りていきます。
ケーヴィンは、しばらくまっすぐ降りてから、横方向へ部屋を広げていきます。
にゅるにゅるにゅる、といった感じで土壁が後退して空間が生まれていきます。
「土や風の精霊の力を制御する術を極めれば、こんなこともできるんですかね。」
「いや、違うぞ、コーダ。よく見ろ、壁が動き終わると、そこで魔道具になってるんだ。」
ケーヴィンが、僕達の背後を身振りで指し示します。
振り返ると、そこには立派に整えられた壁ができ上っていました。
「うお、何だこれ!? 土っていうか……陶器? 金属か?」
つるつるに磨き上げられたような光沢のある表面に、美しい紋様が刻まれています。
ほのかに光って、神秘的な雰囲気をかもしだしています。
この壁一枚だけで、立派な美術品になりそうです。
五メートル四方程の空間を作ると、いったんアビスマリアさんは元の濁った水晶球の姿に戻りました。
「ふぅむ。この男の魔力では、これしきしか作業ができないわね。」
見ると、ケーヴィンは床にへたり込んでいます。
「いや、この一枚の中に、どれだけの術式が詰め込まれてると思ってるんだよ……」
床も壁も天井も、美しく飾られています。
これがすべて、魔道具相当ということですか。
ケーヴィンは、その制御のための魔力を提供しただけのはずですから、ダンジョンコアの魔力、恐るべきということろですね。
「いや、俺もダンジョンには詳しくないけどよ、この部屋の立派さは相当なものだろう? アビスマリアさんよ、この壁、ちょっと殴ってみてもいいか?」
「ふん、私の作ったダンジョンの壁が、そこらの魔道具で傷が付けられるものか。」
「だとよ、茶虎丸。ちっと見せてやろうじゃないの。」
「ええぇ。アラクレイさん、剣は、壁に切りつけるものじゃないでしょうよ……」
僕が止めたにもかかわらず、腰だめから一閃。
ぎぃん、と鈍い音がしました。
アビスマリアさんが、驚いた声をあげました。
「ほう! 驚いた。私の作った壁を、削ってるじゃあないの。」
「ほんとに、表面だけだけどな。しかも、ああ、もう復旧されてら。」
僕には、聞こえています。
「アラクレイ、あたし、やったよ…… あの、奈落の聖母に、一太刀浴びせてやったよ…… しばらく、眠るね……」
おーい。
っていうか、地下の倉庫や工房に、こんな強度要りますかね?
アビスマリアさんの辞書には、適当とかいい加減とかいう言葉はなさそうですけど。
縦穴部分は、昇降する箱を作っていました。
認証と、許可なく入り込んだ者を処分する機能がある、そうな。
とりあえず三人とも管理者権限を設定してもらいました。
そんなこんなで、午後も遅くなってきた気配です。
いったん作業は切り上げて、村の宿に泊まることにします。
ケーヴィンも、夕食を一緒にすることにしました。
昇降機で、地上に上がっていきます。
小屋の周囲には誰もいないようですね。
アラクレイが、ちょっと怪訝そうな顔をしています。
「なんだ? 近くに誰もいねえな。」
範囲を広げて探知をしてみると、村の外側の方に、たくさんの生命反応があります。
たくさんの。
村人より、はるかに多くの。