ケーヴィンの新たな工房
「おう、ケーヴィン。調子はどうだ!」
アラクレイが、大きな声で呼びかけながら、ケーヴィンの小屋に入っていきます。
「ああ、アラクレイ。例のマントはどうだい?」
「悪くないんじゃねえかな。まだ実戦らしい場面がないから何とも言えねえけど、暗闇に紛れる場面なら、コーダでも簡単には探知できないみたいだぜ。」
「アラクレイならどうよ。」
「俺か? 俺は、まあ、気づいちまうな。なんつうか、息遣いが消えるんだ。あのマント羽織った奴がいる場所から。」
「また、どうしたらいいかわからないようなことを言う……。」
「しょうがねえだろ、どうしたらいいかなんて俺が知るか。それを考えるのが、お前の仕事だろうが。」
いつものごとく、仲良しなようです。
「あれ、なんか工房の中の様子が変わってますね。」
「ああ、道具や設備を入れ替えたりね。風穴で、あれだけ付与術使ってたからね、いろいろ見えてきたものもあったし、お金もね。」
「工房のグレードアップができたってことですね。それはおめでとうございます。」
「最近作ってるのはな、これなんだ。」
ケーヴィンは、絶魔体を組み合わせて作った小さな箱を取り出しました。
「こないだから、何十粒も精霊石を預かってるだろう? 正直、恐ろしくてさ。この箱に収めて、土の中に隠す仕掛けを作ろうと思ってね。」
「いや……、その箱じゃ、小さすぎるだろ……。」
アラクレイが、ちょっと目をそらしながら話しています。
「ん? 何が?」
「俺たち、しばらくダンジョンだとかあちこち移動することが多そうなんで、手元の石も預けていくつもりなんだ。魔道具も、いくつか作ってほしいしな。」
「ああ、そうなんだ。」
「それで、ですね。とりあえず、これだけ預けていこうかと……。」
大きな鞄の中から、順番に袋や箱を出していきます。
「ん……?」
袋や箱の中身が、粒よりの精霊石三百以上と数えきれない小粒の石であるのを見て、ケーヴィンが目を閉じました。
「宝物庫並みの警備を敷くべきだろ、コレ…… どんな伝説の埋蔵金だよ……」
産出方法は様々あるものの、一粒を得るのに、中級の魔獣を討伐する必要がある精霊石。
つまり、数人の経験を積んだ冒険者の命が、天秤の片側に載せられる存在。
それが数百。小国の、年間国家予算に匹敵する価値がある。
「単に隠蔽とかそういう小手先の術で隠してなんておけねえよ、どうすんだよ……」
「大して元手もかかってないんだ、少しくらい無くなったって文句言わねえよ。保管料で二割か三割持って行ってもいいぞ。な、コーダ。」
「そういう問題じゃないよ、こんなのどこかに隠し持ってるって知られただけで、何年がかりでも拷問されるっつうの……。」
まあ、確かに、普通の村の小さなぼろい工房に置いておくのがいいとは思ってないんですけどね。
はい、と挙手します。
お二人が、僕のことを見ます。
「いいことを思いつきました。」
「……なんだ? 言ってみろよ。」
「僕に何をさせようっていうんだい……」
あれ? なんだか、とても消極的な目つきですね。
アラクレイさんも、なんか疑うような表情ですよ?
「アビスマリアさんの力を借りて、地下に秘密の工房と倉庫を作るんです。」
「……コーダにしちゃ、まっとうな提案じゃないか。」
なんだかトゲのある言い方ですね。
それでも、僕の提案は検討の余地ありとされたようです。
アビスマリアさんも交えて、詳しい話を詰めていきます。