シュッツコイの召喚
時代がかった言い回しで、帝室の使いの者が言い残していった。
「ニングルム部隊長、シュッツコイ殿。帝室官房長より、問いただしたきことがある旨、申し伝える。宜しく出頭いたせ。」
シュッツコイと副隊長は、立ち尽くしている。
使いの馬車が走り出すと、副隊長は、落ち着きなく腕を動かしながら、早口にまくしたてる。
「どうされますか。今の私達は、あまりに無力。そして、どうしたら回復できるのか見当もつかないという無能をさらしております。」
シュッツコイは、いつものごとく、低い声でぶっきらぼうに答える。
「正式な出頭命令だ、誤魔化すわけにもいかんだろう。イジュワール様の不在と、ニングルムが機能を失っていること、報告するほかあるまい。」
「こうなると、出遅れた感は否めませんな……。呼び出される前に、こちらから報告すべきだったやもしれませんね……。」
「報告しようにも、ほとんど何も掴めていないのだ。今さら悔やんでもどうもあるまい。」
「それもそうですね。さすが、部隊長はいつも冷静でいらっしゃる。」
冷静なものかよ……。
使者への応対の間、シュッツコイの背中は、ひんやりとした汗が途切れなかった。
今は、ニングルムに呼ばれる前の光景が脳裏に浮かんでいる。
十代の頃。
田舎で食い詰めて冒険者になり、大した稼ぎもないままうろついていた。
ふたつ名は、運盗人。
剣の腕は、悪くなかった。
街を拠点とする冒険者としては、一流半くらいに位置していたはずだ。
だが、悪くないメンバーが集まったはずなのに、どうしてか依頼を失敗する。
治癒術師が回復の術を失敗して重戦士がやられ、戦線が崩壊する。
野伏が探知できずに、魔獣の群れに夜襲を食らう。
いくつもの段取りを経て地竜を罠に引きずり込み、大魔法で焼き尽くすはずが不発。
期待外れの失敗は、いつもシュッツコイと共にあった。
剣士としての腕と名が知られるほどに、かえって有力なパーティーからは避けられるようになった。
衛兵や警護の仕事など、声も掛からない。
その上、シュッツコイは、生活魔法の類も使えなかった。
魔道具も、うまく働かないことが多く、頼りにはできなかった。
単独行で冒険をしていても、術なしでは稼げるネタは限られる。
理想や主義主張があったわけでもなく、純粋な力へのこだわりがあったわけでもない。
冒険者として稼ぎ、豊かに暮らし、故郷に錦を飾るくらいの、単純な願望があっただけだ。
技も力も、あるはずなのだ。
「剣の腕は大したもんだぜ。」
いつも評されていた。
ひたすらの鍛練が、シュッツコイを支え、同時に逃避先でもあった。
その剣士としての存在感が、シュッツコイの特異な力を目立たせなかったのは、むしろ皮肉であったと言えよう。
運を盗む者。
それが黒の系統の力だと教えられ、その価値を見出されるまで、長くもがき苦しむ日々は七年を数えていた。