村への道すがら
さて、ケーヴィンの村までは、あと半日というところです。
帝都の倉庫のことは、今は、忘れています。心のそっと奥の方です。
僕ではない、誰かがやったんです。
倉庫と魔道具(抜け殻)の大半が破壊されてしまいましたが、商売上は問題ありませんでした。
そうですね、ボタクリエさん。
ボタクリエさん達からすれば意味の分からない状況ですが、何も言わずに残りの石を受け取っていました。
商談会や、今後の取引についても、態度は変わっていません。
つまり、ボタクリエ商会は、うさん臭いことこの上ない僕達との取引を、続けることにしたということです。
それに、払うものは払っているんですから、僕達も、後ろめたいことはないはずです。
買ったモノをどうしようが、所有者の勝手だろうが!
奴隷をイジメる三下のようなセリフを頭の中で再生してみたりします。
はあ。
ま、考えても仕方ないことは、考えても仕方がないということで。
街道を少し外れて最短距離を移動しているので、人の通りはありません。
箱から出されたサー・エリクとアビスマリアさんは、ここぞとばかりに話しかけてきます。
「コーダよ、この後はどうするのだ? このまま精霊石を集めてはばらまいていくのか。」
「そうよねえ。使われてない魔道具から精霊を解放してるってのはいいことだけど、新しい精霊石で新しい魔道具が作られたら、また不要になる魔道具が出るってことかもよ?」
「うーん。今度の商談会には、僕達も裏方で会場に入れるそうですから、その時に、新しい精霊石がどんな風に使われるのかを見てみたいですね。」
僕の力は、精霊石を作るところまでですからね。どうやって使うかは、どうしても他人任せになっちゃうんですよね。
そもそも、僕も、何か目指すところがあって、こんなことをしているわけではないのだ。
剥奪術を手にして。
家を出されてしまって。
風穴にたどり着いて、使われない魔道具達のことを知って。
これなら精霊石が山ほど手に入るじゃないか!って興奮して。
帝都にも、死蔵されてる魔道具は大量にあるってことに気が付いて、今ココ、と。
「アラクレイさんは、これからどうするんです? お金なら結構稼ぎましたし、その気になれば魔道具も作り放題ですけど。」
「俺か? ケーヴィン達に換金した分の分け前を配ったら、ちょいと腕試しに行こうかと思ってるけどな。茶虎丸も、この辺りじゃあ活躍の場がないしな。」
「腕試しですか? どちらへ?」
「便利な魔道具が色々用意できるってことなら、ダンジョンも潜ってみるかな。
特殊な装備が必要で、普通の冒険者じゃ割に合わないって放置されてるダンジョンがいくつかあるんだ。俺達なら、そのコストはあまり考えなくて済む。
正直、魔道具が作り放題と思うとダンジョンの宝の魅力も色褪せちまってるところはあるけどよ、誰も見たことのない領域に入ると考えたら価値はあるだろう?」
「なるほど……。いいですね、それ。僕も一緒に連れてってくださいよ。
珍しい場所に行けるんなら、アビスマリアさん達も文句はないでしょう。」
「何言ってんだ、お前は俺が鍛えるって言ったろう? 一緒に行くに決まってるじゃねえか。
探索は遊びじゃねえんだ、甘くないからな、覚悟しとけよ!」
「そうでした、師匠!」
ふふ。
思わず微笑みが浮かびました。
サー・エリクやアビスマリアさんも、顔は見えないけれど、嬉しそうな波動を感じます。
幸せな、時間でした。
そして、ケーヴィンの住む村へ、到着しました。