アビスマリアの力
僕は、眠気でもうろうとしたまま、アビスマリアさんを箱から出して、その力を借りながら、倉庫の精霊の剥奪を始めました。
「そう、風穴の時のことを思い出して。
糸をほどいていくようなイメージで、壁と柱の下の方から、順番に抜き取っていくの。
そう、そうそう、いいわよ……、そのまま、もっと続けて……。」
風穴の時に比べれば、命の危険があるわけではないですし、魔力量もずっと小さなものです。
落ち着いてやればどうということはありませんでした。
それでも、朝焼けの中で、大きな建物がゆっくりと溶けていくような、地面に沈んでいくような光景は、なかなか印象的なものでしたね。
「それにしても、アビスマリアさんは、なんでこういうことに詳しいんですか?」
「ああ、人間が言うところの、ダンジョンコアの能力って奴ね。
風穴と一緒で、ダンジョンも、大きな魔道具みたいなものなわけよ。それで、ダンジョンコアには、大きく広げて行ったり、形を変えたり、いろいろ仕掛けを用意したりする力があるの。
剥奪術や破精術と違って、時間をかけなきゃならないけどね。」
「それじゃ、魔道具の形や種類を変えたりもできるってことですか?」
「うーん、直接は無理よ。いったん仕掛けを解体して、放出された力を回収して、もう一回作るって感じね。
大きなものだと何十年、何百年もかけて解体したり作ったりするから、人間の時間感覚とはかみ合わないでしょうね。」
「何十年、ですか。それは、術という言葉で語るようなスケールじゃないですね……
それにしても、ダンジョンコアの力を目の前で見られるなんて、なかなか無い経験でしたね。」
「おお……。まったくよ、コーダと出会ってからこっち、見たことも考えたこともない術やら光景やら、次々とやってくるもんだから、今までの俺の人生がちっぽけなものに思えてきちまうぜ。」
「何言ってんですか、アラクレイさん! まだまだ人生はこれからですよ!」
徹夜明けの奇妙に高揚した気分の中、僕達は楽し気に語り合っていました。
ただ、最後に崩壊した屋根と天井、それに潰れた魔道具が残っているのを目の当たりにしたとき、何かが間違ってるんじゃないか、という思いが心の奥底には漂っていました。
でも、僕もアラクレイも、お互い今は考えるのはよそう、ということしか頭にうかびませんでした。
ボタクリエ商会の二人に、倉庫の成れの果てを見られてしまったことも含めて。
結果として、ボタクリエ商会は話の分かるお店でした。
しかし、この時に、他にも僕達がやらかしていたと知るのは、ずいぶん後になってからのことでした。