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倉庫の精霊

え? 誰? もう、魔道具はすべて剥奪して精霊を回収したはずなのに……?


そう思ってドアを開けて覗き込んだ僕に、もう一度声がかかります。

ドアの、真上?


「私は、この倉庫の精霊よ!」


ええ? えええ!?

倉庫の精霊さん、ですか……?


うーん。

確かに、倉庫も魔道具になっているみたいです。

風穴でさえ、剥奪できたのですから、倉庫だって、できるのでしょう。


でも、数百点の家具や調度が収められていた広大な倉庫です。

パイプオルガンがそのまま壁ごと保管されているような、高さもあります。


本人が出る気満々ですから、剥奪自体は難しくないでしょうが、抜け殻になったら、明らかに崩壊するでしょう。派手な音と振動を伴って。


それに、ここは倉庫街。

すぐそばに建物が並んでいますから、がれきで周囲に被害を及ぼすのも、避けたいところです。


大きな建築物の解体を制御するなんて、アラクレイ一人では不可能です。


「お願い、私はザオリストを見守るためにここに置かれた精霊だったの。あの人に去られて残されるなんて、どうしても耐えられないのよぉ!」


騒がしい精霊ですね。

そんなお役目に選ばれるくらいですから、普段は品のある振る舞いなんでしょうか。

まあ、どうでもいいんですけど……


「アラクレイさん、この倉庫の精霊も、連れてってほしいそうなんですが……」


正直言って、眠いし疲れているので、あまり気分がのりません。

腕を組んで悩んでいると、例の少女のような声が聞こえてきました。


「ふぅん、それなら、力を貸しましょうか。」


「ん? アビスマリアさん?」


「あたしなら、剥奪の場所や速さを細かく制御できるわよ。ゆっくりと下から高さを合わせて剥奪していけば、抜け殻になると同時に圧縮されていくはずよ。」


「ああ、風穴でも、そうでしたね。それでも、相当な抜け殻が残って、隠せなくなりますけど……」


「抜け殻は、そのまま残してしまってもいいんじゃない? 中の魔道具の抜け殻も合わせて潰してしまえば、どの魔道具がどうなったか分からなくなって、いっそ都合がいいと思うけど。」


「簡単に言いますね。抜け殻って、そんな風に他人に見せちゃって大丈夫なんですか? 」


「この帝国には、破精術ってのが伝わっているはずよ。破精術を使うと、魔道具が強制的に解体されて、後に力を失った素材が残るのよ。」


「破精術、ですか。僕は聞いたことがありませんね。」


「黒の系統とか呼ばれていたかしら。人間の間でどんな扱いかは良く知らないけれど、風穴の関係者には、黒の系統を使える人が結構いたわよ。スミも、素質を持っていたはず。」


「え、黒の? あ、僕の剥奪術と、何か共通点があるかもしれないってことなんですね。」


あー、そういえば、実家でも、加護の儀の後に母や兄が何か言ってました。

なんだ、ある程度詳しい人達の間には、知られた話ってことですか。


「で、夢魔の一族のお話ですか。アラクレイさん、知ってました?」


「んー。破精術かどうかってのは知らないが、夢魔の一族が伝える特殊な術があるってのは聞いてるぜ。

風穴の管理主に任じられるんだ、精霊に関わる術なのは確かだろうな。」


「すると、抜け殻を残したとしても、剥奪術に結びつくとは限らないから、いいんじゃないかってことですか。黒の系統の術なら、ほかにも使い手がいると。」


「そうね。」


後で思えば、大きな間違いをいくつもしていたことに、その時の僕達は気が付いていませんでした。

睡眠不足は、正常な判断を奪うのです。


それに、黒の系統の話を聞いたとき、ちょっと感じたんです。

自分と同じような術を伝えている人たちがいて、忌み嫌われるだけじゃないんだ、使ってもいい術なんだという安堵感みたいなものを。


ただ。

風穴の精霊であったアビスマリアさんも、人間の社会のことに、詳しいわけではありませんでした。

つまり、破精術の実際が、どういうものかまでは分かっていなかったのです。


高位の魔道具を破壊するのにどれほどの準備が必要なのか、あるいは、建物のように巨大なものを破壊する破精術というのがどのくらいあり得ないものであるのか、と。



夏休みだからでしょうか?

普段より多くの人に読んでもらえているようです。

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