回収作業
気配を殺したまま倉庫に入ってから、マントを脱ぐと、いくつかの魔道具が反応していました。
警備関係の機能を持っている魔道具の精霊からすると、このマントは敵視すべき存在でしょうね。
「馬鹿な、俺の探知をすり抜けた……!?」
「く、この距離まで接近を感じさせないなんて!?」
はいはい、そこはあまり気にしないでおいてくださいね。
「お待たせしました、皆さん。これより、剥奪の術を順に行っていきます。
僕達と一緒に、ここを出て行きたいという方は、術を行う際に、そのように念じてください。術の発動が、スムーズになります。
素材の持つ特別な力も、ある程度は一緒に持っていけますので、素材の力と一緒でないと意味がないという方も、安心してください。」
最初の声掛けからは十分時間があったはずなので、ちゃっちゃと進めていきます。
「あと、今回剥奪しない場合、次にこちらへ来るのはいつになるか全く未定です。場合によっては、二度と来れないかもしれませんので、ご了承ください。
何か質問はありますかぁ?」
質問したさそうな気配が数か所で上がる。
「質問のある方は、順番を後にしておいて、その時にお話をうかがいますね。あ、全員を剥奪する時間がないかもしれませんので、その場合はご了承くださいねー。」
質問は、全員取り下げたようですね。はい、大変よろしい。
悪徳商法を疑うような気分になってるかもしれませんが、勘違いしないでくださいね。あなたたちは、もうすでに、僕達に売られてしまった後なんですから!
それに、なにしろ最古参の精霊が一番に剥奪に同意してますし、サクラとしてはまさにうってつけでしたね。
おっと、思わず本音が出てしまいました。
さあ、作業を開始しますよ。
精霊石の回収はアラクレイに任せて、僕はひたすらに魔道具からの剥奪に専念しています。
「剥奪! 剥奪! 剥奪! はくだつ! ハクダツ! ハクダツ…… はくだっ……」
風穴の最下層での光景がフラシュバックしてくるのを、意志の力で追い散らしながら、剥奪を繰り返します。
百を超えたあたりからは、数えてもいませんでしたが。
剥奪の術で抜け殻になった品物で崩れそうなものは、剥奪直後に倒れたりしないよう処置しています。
どちらにしろ抜け殻なので、どうなろうが構わないのですが、大きな音を立てると要らない耳目を集めるかもしれないという、それだけです。
ふと一休みして後ろを振り返ると、アラクレイが巨大な大理石のテーブルの足に、下蹴りを当てて崩しているのが目に入りました。
後方のブロンズの騎士像は馬の脚が叩き折られて横倒しにされており、暖炉の煙突はひしゃげて丸められています。
酷い光景です。
「なんていうか、美術工芸品に対して破壊の限りを尽くしているような気分になるんですが。」
「仕方ねえだろ、こんな夜更けに倉庫の中でドスンドスン物音立ててたら、衛兵呼ばれちまう。
精霊さん方には悪いが、新しい人生の始まりだ、いくら美しかろうと、過去は捨ててもらうしかあるまいよ。」
ですよねー。
蛮族ごっこはアラクレイに任せましょう。
一点当たり数十秒で作業を行っていますが、それでも数時間かかってしまいました。
「もう…… 夜が明けましたね…… これで…… 最後です……。」
「よし…… よくやった、コーダ…… いや、コルダ……。」
「さすがに…… 今はどうでもいいですよ……。」
完全に徹夜の作業を終えて、僕達はよろめきながら、倉庫を出ました。
再び鍵をかけようとしたとき、語り掛けてくる声があります。
「私は!? 私はどうなるの!? 置いていかないで、お願いよぉぉ!」