倉庫でのこと
コルダことコーダと、アラモードことアラクレイは、帝都を離れ、ケーヴィンのもとに向かっていた。
「いやー、いい商売相手が見つかって、良かったですね。まさか、帝都に来てさっそく、あんなに良質の魔道具が大量に手に入るなんて、思ってもいませんでしたよ。」
「今、手元の石が……三百五十くらいか。細かい粒石なんて、現金化した分差し引いても、まだキロ単位で計るくらい残ってるだろ。
とんでもないことになってんな。」
のんびりとした口調だが、二人ともに、相当な速度で走りながらの会話である。
「やっぱり、昔の魔道具は、贅沢に精霊石を使ってますよ。その分、雑な術式だったり、この魔道具そもそも何に使うんだってのも多いですけど。」
「魔道具の精霊と話せるって聞いた時には、スミの能力みたいなものかと思ったけどな。倉庫での光景は、忘れられんぜ。」
「いや、あんなことになるなんて、僕も思ってなかったですよ。」
「くっくっく、あれはなかなか愉快な出来事だったわぁ。」
鞄の中から、女の子のような、しかしどこか人間離れした声が発せられる。
「アビスマリアさん、外で声出しちゃ、駄目ですよ?」
そう返しつつ、コーダは、倉庫でのことを思い出していた。
最初に倉庫に入った時、そこは、時の止まったような、そして奇妙な沈黙に包まれた空間でした。
漏れ出した魔力がそこかしこに揺らめいていて、探知するまでもなく精霊の力を感じるほどです。
それでいて、何も聞こえません。
同じように魔道具がたくさん集められていても、風穴とは、ずいぶん違います。
ふと、僕は、実家の空気を、思い出しました。
ああ、ここの魔道具達は、「しつけのいい」精霊達なんですね。
そう気が付くと、目の前に静かに並ぶ家具や調度の群れは、単なる品物ではなくて、姿勢を正し、主の帰りを迎える従者達のようにも見えてきました。
ふふ、新たな主が、ここにいますよ!
少しうれしくなって、従者たちに声をかけていくように、手を触れていきます。
「アラモードさん、見てください。この棚。この棚に収められた品物に、毒の探知と分解の効果を付与するみたいですよ。
こっちの玄関扉は、触れた者の帯びている幻術を、強制的に解除するんですね。相当高位な幻術でも、看破できそうです。」
物珍しそうに、アラクレイもうろついています。
沈黙していた魔道具の精霊達の、心の声が漏れ聞こえてきました。
「見学の学生かのう……?」
「お客さまにしては、幼すぎるか……」
通路の中央まで進んだとき、僕は、話しかけてみました。
精霊に向けて。
「わが名はコーダ、汝らの新たなる主なり! ここにとどめ置かれし魔道具の精霊よ、わが声の聞こえる者は、静寂の中に応えよ!」
数瞬、先ほどまでの静寂を上回る無音の時が訪れました。
あ、こういう話しかけ方はいかんかったかな? と思った直後。
「精霊の声だと!?」
「わが主よ!」
「新たなる、幼き主人に忠誠を!」
「いや待て、信用できるのか!?」
バラバラと、そこかしこで精霊の思念が漏れ出してきました。
ふふふ、お行儀の良い精霊達と言っても、この声で話しかければやはりびっくりするみたいですね。
と、そのとき。
「よく聞け、ガラクタに宿りし、見捨てられ、忘れ去られた精霊どもよ! 」
え、アビスマリアさん、何言い出すの……
なんか、みんな、もの凄く引いた気配なんですけど……?
気がついたら、百話を超えてました。
ちょうど十万字くらいですね。
いろいろ書いてみると、他の作品を読んだときの感想も違ってきますね。
あと、自分の引き出しの中身が見えてきたりとか……