ソチモワールの忠臣達
「ニングルムが動いているという情報は、いまだ確認できていないのです」
「しかし、破精の術なのであろう。」
「はい、それも、相当に高位のものと思われます。」
「破壊された魔道具は、何なのじゃ。」
「魔道具の倉庫、丸ごとにございます。」
「ほ?」
ソチモワールの目と口が丸くなる。
「そして、その中には数百点の魔道具が収納されていたようです。」
「……どういうことじゃ。」
「現在分かっているのは、そこまでです。
大量の魔道具を保管していた倉庫が、この倉庫も当然魔道具ですが、一棟丸ごとに魔力を消され、崩れ去っていたとのことでございます。」
「ば、馬鹿な…… 魔道具化された、建物を破精する、だと……?
そのような、巨大なものをか。
どれ程大規模な魔法陣を用意すれば、そのようなことが可能なのじゃ。」
「それが…… 術式の痕跡が、確認できていないのです。」
「なぜじゃ。ニングルムの連中の妨害でもあるのか。」
「崩壊しているのはその倉庫一棟のみで、周囲にはまったく被害がありません。地下も探知をかけましたが、魔法陣を構築するために必要と思われる空間が、どこにも無いのです。」
「い、意味が分からんな。お前も知っておろうが、ワシは、精霊術は使えん。詳しくないワシにも分かるように説明せよと、いつも言っておるではないか。」
「はい。つまり、今のところ、我々にも、さっぱり分からない事態だということしか分からないのでございます。」
「分からないということが、分かった、か……」
「調査は続行しております。新たな事実が判明しましたら、
速やかに報告いたしますので、どうぞお休みください。」
「うむむ…… そうか。果報は寝て待てという奴か…… って、おちおち寝ておれるか! 」
ソチモワールは小心者なのだ。
「しかし、今わかっていることはこれだけでして……」
「だったらいっそ、今知らせずに、ゆっくりと寝かせておいてくれれば良かったものを。」
「朝になってからお知らせした方が、よろしかったですか?」
「朝では…… ちと遅かろう。」
「では、早朝ですか。」
「早朝か…… 余り早いと、ゆっくりと寝た気がせんだろうな。」
「では、真夜中にお知らせして、二度寝はいかがでしょうか……」
不毛なやり取りであったが、部下の官僚は慣れたものだった。
ソチモワールの場合、目の前に別な命題を提示してやれば、何が最優先だったかはあまり意識されないのだ。
ソチモワールは、今から寝るのが最適な選択肢であると結論し、結論が出たという事実に満足を覚え、気持ちよく眠りに就いたのであった。
この人を、守るのだ。
新たな決意を覚えた官僚を残して。