リュシーナの思い出
タイトルは仮です。
不定期連載になります。
僕は覚えている。
八歳のとき、宮殿の舞踏会で、初めてリュシーナと会った時のことを。
大人たちが踊っていて、僕たちは広間のすみっこで子ども同士集まっていて。
僕は、手に持っていた、果実水を冷たいままにしてくれるグラスから、氷精霊をそっと解き放って。
手のひらの上で、薄青い小さな石になったその精霊を、リュシーナに渡してあげた。
リュシーナは、クスクス笑いながらそれを受け取って、自分の持っていたグラスに重ねて閉じ込めて。
グラスにはキラキラと霜が降りて、中の果実水が凍っていって。
出来上がった甘い果実氷を、二人で分け合ってコッソリ食べたんだ。
グラスの中の氷精霊も、くるくる笑ってた。
きっと、また会えると思ってた。
お前には、不思議な才があるって身の周りのみんなに言われていて。
ちゃんと努力して勉強していけば、あそこに集まっていたような優秀な友だちといっしょに学校に行けるって。
でも、最初に叱られたのはいつだったかな。
「そんなことをしてはいけない」って。
五歳の誕生日にいただいた短い杖から、火精霊を解き放ったとき。
近くにいたお兄さまに、「戻せなくなっちゃった」と言ったら、「何してるんだ、杖をこわしちゃダメじゃないか」って。
お兄さまは、杖をながめて、ちょっと不思議な顔をしたけれど、精霊石を渡したら、火精霊を杖に封じて、元に戻してくれた。
僕は小さい頃から、ほかの誰よりも、精霊の声をよく聞けた。
だから、みんなは僕が飛びぬけた付与術師になると期待していたらしいんだ。
でも、七歳になっても、八歳になっても、お兄さまたちと違って、付与術のまねごともできなかった。
それでも、精霊の声が良く聞こえるのだから、きっと何か珍しい才があるのだと、せかしたりせずに待っていてくれた。
十歳になって、加護の儀が行われるまでは。