ACT2 二日目
ACT2 二日目
昨日と同じ公園。
ベンチには祥子が座っている。
子供のはしゃぐ声。
彼女の足元にサッカーボールが転がってくる。
しかし、彼女は拾わない。
そこに子供が走ってきて、ボールを持ってまた走っていく。
彼女は子供の後ろ姿を見つめる。
そこに幸恵が来た。
幸恵 時間あったの?
祥子 なかったら来てない。
幸恵 そうね。
祥子 なんか大変そうね。
幸恵 なにが?
祥子 子育て。よくあんな面倒くさそうなことするよ。
幸恵 ?
祥子 なんていうんだっけ?あの……あれ。
あ、公園デビューだっけ?やっぱり偉そうな主婦代表みたいなやついるの?
幸恵 (少し笑って)いるね。
祥子 やっぱ、いるんだ。
幸恵 どこでもそうでしょ?そういうとこは昔と変わんないよ。
祥子 ……。
幸恵 あ、ごめん。思い出しちゃった?
祥子 嫌なこと思い出させないで。
幸恵 ごめん。
祥子 もっと別の話ないわけ?
幸恵 そうだね。
祥子 こっちは休憩返上で来てるのよ?
幸恵 それじゃ、本題。
祥子 本題?
幸恵 母親の悩みとかって興味ない?
祥子 は?
幸恵 ほら、現役主婦の悩みなんて聞くことなんてそうそうないでしょ?
祥子 ……いや、そういうことって……。
幸恵 (少し笑って)深い付き合いがないから、話せることもあるよ。
祥子 ……まぁね。
幸恵 祥子さ、全部いらなくなる時ってない?
祥子 え?
幸恵 なんとなくでもさ。
祥子 ……。
幸恵 あの子、今父親いないんだ。
祥子 ……。は?
幸恵 うん、先月離婚して。
祥子 ……。
幸恵 うん。驚いた?
祥子 そりゃ……ね。
幸恵 最初はね、一人で育てるんだって頑張ってたんだけど……。
いや、むきになってたのかな。
だんだん、なんか……辛いって言うか、後悔してんだよね。
離婚するんじゃなかったって。
祥子 ……。
幸恵 うん、後悔。
祥子 ……いいじゃない。
幸恵 え?
祥子 自分が決めたことなんでしょ?
幸恵 うん。
祥子 少なくとも離婚したその時はそれでいいと思ったんでしょ?
幸恵 ……。
祥子 ……違うの?
幸恵 わからない。
祥子 後悔の波になんて飲まれないでよ。自分で決めたんでしょ?
後悔なんてね、自分が前に進むための道具にしちゃえばいいのよ。
幸恵 ……そうかな。
祥子 そうよ。
幸恵 親ってさ。
祥子 ん?
幸恵 道標だと思うんだよね。
祥子 道標?
幸恵 少なくともやりたいこととか見つかるまでは。
そのかたっぽ奪っちゃったのかもなって。
祥子 ……。
幸恵 どうしよう。
祥子 捜せば?
幸恵 え?
祥子 道標。捜せばいいじゃない。
幸恵 ……。
祥子 子供に理由見つけようとする前に、自分のやりたいようにすればいいじゃん。
幸恵 やりたいことやったらこうなったのよ。それに、捜して見つかるものじゃないよ。
祥子 じゃあ、迷わないでよ。
幸恵 迷う?
祥子 自分のやったことに迷うくらいなら最初からしちゃ駄目。
でもね、やっちゃったなら、それをチャンスにして前に進めばいいのよ。
幸恵 前に?
祥子 ある意味道標がないなら、どこに行ったっていいじゃない。
幸恵 ……。
祥子 進まなきゃ。
幸恵 祥子は、強いね。
祥子 ……。
幸恵 私は駄目だなぁ。
幸恵、うつむく。
祥子は、そんな幸恵を見て、
何か思いついたように、
かばんから一冊の本を取り出した。
祥子 これあげる。
幸恵 なにこれ?
祥子 地図。
幸恵 なんで?
祥子 道標見つけるまで、それ使いなよ。
幸恵 迷子になりそうだね。
祥子 何もないよりいいでしょ?
幸恵 それもそうだね。
遠くから子供のはしゃぐ声が聞こえた。
よく聞くと、喧嘩が始まったようだ。
しばらくすると、はしゃぎ声は泣き声に変わった。
祥子 あ~ぁ、また泣いてるよ。
幸恵 そうね。
祥子 行かなくていいの?お母さん。
幸恵 そうね。行ってくる。
祥子 じゃね。
幸恵は子供の方へ向かうが、
ふと足を止め、
幸恵 祥子、ありがとね。
祥子 また来るよ。
幸恵 うん。
幸恵、振り返らずに去る。
祥子、一人になりベンチに座る。
祥子 「ありがと」……ね。私の台詞かな。
携帯電話が鳴る。
しかし、祥子は出ない。
携帯電話のコールはしばらく響いて、
やがて途切れた。
祥子は、鞄の中から、
書類を取り出す。
そして、
ゆっくりと破いて、
空を見上げた。