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相対する鏡界世界

【another story】Twelve years ago

作者: 巫ホタル

 この世に生まれて十七年。

 はるかは、人間を辞めた。

 鏡行禁忌軍極東管轄部きょうこうきんきぐんきょくとうかんかつぶを統べる《三元帥》の一人、紅月時和こうづきときわの一人息子として。

 極東軍の中で大きな権力を持つ上位三家、《三大名家》の一家、【紅月】の長男として。

 いずれは紅月家の当主となり、《三元帥》の一人となり、極東軍率いる者として、悠は期待されて育ってきた。

 物心付いた頃には既に英才教育を施され、五歳になる年からは剣術や武術、更に戦術の指導も始まった。

 上に立つ者として扱われ、自身を律し、鍛え、歩んできた。

 そしてこれからは《コネクター》として、戦いの中で生きていくのだと自身に言い聞かせた。

 そんな彼が出会ったのは、二人の少年。

 自分と同じくらいの年に見える容姿の、同期だった。

 会うのは初めてだったが、けれど誰かは知っていた。

 自分と同じ、《三大名家》の時期当主候補達だ。

 もっとも、片方は養子だと聞いていたが。

「君が紅月悠君? 俺は天野宮季覇あまのみやきは。これから宜しく!」

 赤みを帯びた、癖のある黒髪。

 屈託のない陽気な笑みに、悠は思わず苦笑した。

「こちらこそ宜しく、天野宮君。それに、明峰あけみね君も」

 そう言って視線を遣ると、もう一人の少年が視線を合わせた。

「……ああ」

 それだけ答えると、彼は再び黙ってしまった。

 季覇とは真逆に、とても落ち着いた雰囲気の少年。

 養子に迎えられるくらいなのだから、恐らくはかなりの実力者だと思われるが、それでなくてもかなりの迫力があった。

 二人顔を見合わせると、季覇はニッ、と笑って言った。

「な、君名前は?」

 そう言うと彼は「は?」と言うように眉間のシワを深くしたが、

「……明峰」

 とだけ答えた。

 しかし季覇は「違う違う」と首を振り、更に言葉を続けた。

「君のファーストネーム訊いてんの。明峰何君?」

「……明峰秀静しゅうせい

「秀静ね、了解♪ それじゃ、改めて宜しく、秀静、悠」

 季覇の第一印象は、二人揃って”変な奴”だった。

 けれど、二人とも口を揃えて、”良い奴だった”と言った。

 後になって思うと、季覇が居たから仲間になれたのだと思う。

 そんな事気恥ずかしくて、誰も言おうとなんてしないけど。


     *   *   *


「は~る~かぁ~!」

「え……」

 遠くから名前を大声で呼ばれて振り返る悠。

 その表情は引きつっていた。

「避けろ~!!」

「はぁあ!?」

 その声は、悠の頭上から聞こえていたから。




「まったく、何やってんの、ホント……」

「いやぁ、ははは。悠の姿が見えたから追い掛けたんだけど、途中で見失いかけてさぁ」

「だからって上から降ってくるかよ、普通……。怪我でもしたらどうすんのよ……」

「はははっ。母親にも言われた」

「だったら直しなよ……」

「ははっ。まぁ、ちょっとやそっとじゃ死なないし? 怪我してもすぐ治るじゃん?」

「そういうことでもないと思うんだけど……」

 無茶で無謀で破天荒な彼。

 しかし、悠が巻き込まれるのはこれが初めてではない。

 というか出会ってから現在に至るまで、巻き込まれなかった試しがない。

「それで、僕に何か用だったの?」

「そうだった! 聞いてくれよ悠ぁ。詩帆しほが可愛すぎてヤバイんだけど……」

「それじゃ僕用事を思い出したから……」

「いやいやいやいや、ちょっと待て!?」

「ハァ……。シスコンも大概にしとかないと後々ウザがられるよ?」

「だってしょうがねぇじゃん。可愛いんだもん」

 最近の季覇の話と来たら、全部これ。

 歳の離れた妹ができたとかで、それはもう溺愛しまくり。

「な、一回会いに来てみねぇ? マッジで可愛いから! 成長したら絶対超絶美人になると思うんだわ」

「僕は遠慮しとくよ」

「何でだよぉ。マジで可愛いぞ?」

「興味ないよ」

「婚約者だろ?」

 季覇の言う通り、悠と詩帆は所謂許嫁同士だ。

 それは詩帆が生まれる前から決まっていた事だが、当人の意思は一切関係ない。

「候補だよ。決定じゃない。拒否権だってあるしね?」

 なんて自分で言いながら、それはないと分かっている。

 天野宮家は血統を重んじる家柄で、同じく《三大名家》としか婚姻を許さない。

 詩帆の婚約者候補の中に《三大名家》は自分しかいないし、となれば拒否権などあってないようなもの。

 しかし会ったこともない幼子を許嫁として扱えるとはとても思わない。

「まぁ、それはおいおいな」

 季覇の言った『おいおい』とは、実にこの時から六年後の事になるのだが、彼等にそれを知るよしはなく、時はゆっくりと、しかし着実に進んでいく。


     *   *   *


「クッソ……これ、何?」

「ははっ。知ってたら良いねぇ……」

 疲弊した様子で、それでも懸命に武器を振るい続ける二人。

 周囲を取り囲むキャスターの軍勢。

 敵との人数差は、こちらの三倍くらいか。

 勝ち目など見えなかった。

「そういや、秀静も来てんだよな、この任務」

「その筈だね」

「生きてっかなぁ……」

「……さぁ? けど、まぁ強いからね」

「……フッ、だな」

 話しながらも斬り進む二人。

 けれど次第に会話はなくなり、二人とも全身を赤く染めていた。

 命じられた命令はただ一つ。『生き残れ』だ。

 相手に隙が出来たら、斬り込むな。逃げろ、と。

 倒す為ではなく、生き残る為に戦えと。

 他人を守る為ではなく、自分が生きて帰る為に戦えと命令された。

「悠! 来い!!」

「!?」

 季覇が相手を三体同時に振り払い、退路が出来た。

 その隙を見計らって、二人は集団から離脱した。




 人気のない岩影に身を隠した二人。

「あ~……疲れた。死にそう」

「冗談に聞こえないよ。結構本気だし」

「だって冗談じゃねぇもん」

「笑えないって……」

 赤く染まった肌に汗が伝う。

 二人とも、既に限界に近かった。

 体力も、心も。

 瞼の裏には仲間と敵の死ぬ姿が。

 耳には仲間の悲鳴が。

 手には敵を斬った時の感触が残ってる。

「しんどいよな、ホント……」

「うん……」

「……けど、まぁ、生き残れてて良かったな、お互い」

「……だね」

 季覇が居てくれて本当に良かった。

 もし生き残っていたのが自分一人だったら、笑えなかった。

 もしかしたら、自害する道を選んでいたかもしれない。

 この極限のストレス状態に、耐えられなかったかもしれない。

「さ、もうひと頑張りしますか。ちゃんと帰投して、詩帆に会いに行かなきゃな」

「ははっ。じゃあ、僕も会いに行ってみようかな」

「マジで!? 行こう行こう! あいつも絶対喜ぶから!!」

 ……その会話が自分を苦しめると分かっていたなら、悠はどうしていただろう。

「こんな所にも隠れてやがったか、小賢しい人間ども?」

「「!?」」

 岩影を出ると、すぐ傍から声が聞こえた。

 知った声ではない。

 目を見開いて辺りを確認すると、見回すまでもなく、敵に囲まれていた。

「うっわぁ…こんなのアリかなぁ……」

「最悪だ……っ」

 渋い表情で敵の主格を睨み付ける季覇。

 その隣で静かに《武器化》する悠。

 敵の数はざっと百を超えているだろうというくらい。

 状況は最悪。

 普通に考えたら、死ぬだろう。

「こんなに軍勢引き連れて来やがって……何の罰ゲームだっての。なぁ? 悠」

「本当にね。けど、罰ゲーム受けるような事してないと思うんだけどなぁ……」

「同感だね」

 武器を構える二人。

 対して相手の主格と思われる男のキャスターは不気味に口元を歪める。

「テメェ等、人間にしちゃ強ぇみてぇだな? 楽しませろよ?」

「はっ。余裕ぶっこいてんと痛い目見んぜ?」

「ほざけ、人間」

 煽るキャスターに、挑発する季覇。

 両者とも張り詰めた空気の中で、笑っていた。

 戦闘が始まる。

 が、もう訳が分からなかった。

 一人殺したらまた一人やって来て戦闘になる。

 また一人殺して、戦闘になる。

 また一人殺して、戦闘になる。

 また一人殺して、戦闘になる。

 また一人殺して……それを何回繰り返したのだろうか。

「ぐ……っ!」

「悠っ!!」

 悠の脇を相手の刀が斬り裂いた。

 それも、かなり深く裂かれたようだった。

「クソがぁ!!」

 季覇の武器、《霧縄きりなわ》の鎖が伸びて、数十体を同時に貫いた。

「悠! 立てるか!?」

「……っ、大丈夫。まだ、いける……っ」

「あともう少しだ。帰るぞ、絶対に」

「当然……っ」

 苦悶に顔を歪めながらも、悠は再び《離遠りえん》を持ち直した。

 そして攻防が再開された、次の瞬間。

「季覇っ!!」

 季覇が、敵の前に倒れた。

「《離遠》っ!!」

 悠が叫ぶと同時に、《離遠》は彼の手を離れ、宙を舞っては敵を貫き動き回った。

 遠距離をも得意とする《離遠》だからこそ出来た芸当だろう。

「は、るか……っ」

「季覇!? どうして……っ」

「はは……。わ、りぃ…ちょっと、相手舐めてたわ……」

「笑い事じゃないだろっ。何で、僕の事助けて怪我してんだよ……っ」

 季覇はただ敵の攻撃を受けた訳ではない。

 悠を庇ったのだ。

「悠……行け」

「!?」

「お前だけでも、逃げろ」

「何言って……っ」

「俺はお前より強ぇよ」

「……っ」

 そんな事は、とっくに知っている。

 季覇は悠と秀静の同期であるが、コネクターとなったのはもうずっと昔の事なのだ。

 季覇がコネクターになったのは、彼が十七の時。

 しかしその後すぐには入軍せず、天野宮家の本邸で訓練を積み、悠達と同じ年に入軍した。

 だから季覇は、本当はもう随分と長い間生きているのだ。

 その間の訓練故に、彼は誰よりも強い。

「それに、さ。俺はもう、無理だわ。結構、キツい……」

 言う間に、止まる事なく流れ出る赤。

 致命傷である事は、悠にも分かっていた。

「……ふざけんな。お前も帰るんだよ、生きて、戻るんだ」

「悠……っ」

 《離遠》を手に取り、再び敵と対峙する悠。

 立ち上がる事もままならない季覇は、その姿を眺めるしかなかった。

「やめろ、悠……っ。もう……っ」

「嫌だ! 君、詩帆ちゃんはどうすんだよっ。君の帰りを待ってるんだろ!?」

「悠……っ」

 直後、悠の肩を相手の剣が斬り裂いた。

 呻き声を上げて刀を落とす悠の背後から、他の敵が襲い掛かる。

「クッソ……ッ」

 悠が覚悟を決めた、瞬間。

「……バカだなぁ、悠は」

「ぁ……季…覇……っ」

「ケホッ……ははっ。俺も、人の事、言えねぇな……」

 脱力し、崩れ落ちる季覇。

 その身体の中央から溢れる、大量の血。

「な、んで……っ。何で、こうなるんだよ……っ」

 地面を染め上げる血溜まりの中に、透明の雫が波紋を作る。

 嗚咽を堪える悠の姿に、季覇は笑った。

「泣くなよ、悠……。俺、まだ死んでないのにさ……?」

「君は、どこまでお人好しなんだよ……っ」

「あ~……まぁなぁ。けど、悠が、守りたいと思わせてんだぜ? 他の奴等も、そう思うから、助けるんだろ? お前が、俺を守ろうとしたみたいにさ……」

「……っ」

 力なく笑う季覇に、悠は大粒の涙を落としながら、項垂れた。

 そんな彼に、言う。

「詩帆にさ、ちゃんと、会いに行ってやってな? あいつも、お前に会いたがってたから……。俺の代わりに、あいつの事、守ってやってよ……」

「……そんなの、無責任過ぎるよ……っ。君が、ちゃんと守れよっ。ちゃんと帰投して、安心させてやれよ……っ」

「そう、したいんだけどさ……。何かもう、感覚失せてきてるし……。だから、な? 頼むよ……」

「……っ」

「頼む、悠。お前にしか、頼めねぇよ」

 何の罰ゲームかと、思う。

 元々この任務は、こんなに危険性のあるものじゃなかったのに。

 ただの偵察任務で、死者が出るような任務じゃなかったのに。

 そこで亡くすのが、同期とか。

 初めて仲間を亡くすその相手が、親友とか……。

 そんなのアリかと、自分の運命を呪った。

「行けよ、悠。生きて、帰ってくれ……」

「……っ。……分かった」

 それから、悠はもう、考える事をやめた。

 現実を見ることを、放棄したんだ。

 そうなってしまえば、後は早かった。

 動かせる片腕を最大限使って、《離遠》を飛ばしながら呪符を投げ付ける。

 そうすれば、一瞬くらいの隙は作れた。

 その隙を突いて、悠は全力で走った。

 走り去る最後の瞬間、目の縁に涙を浮かべていたことに、季覇は気付いていた。

「……ごめんな、悠……。残される奴が、一番キツいって分かってる」

 季覇も父親を亡くしているから。

「けど、どうか……」

 どうか、生きて。

 そしてあいつを、詩帆を、守ってやって欲しい。

 詩帆を愛してくれなくても良いから、せめて、困ってたり、泣いてたら傍に居てやって欲しい。

 勝手かもしれないけど、お前にしか頼めないから……。

「頼んだぞ…悠……」

 その為に、今は俺が、時間を稼ぐから。

「さぁて、あいつを追わせはしねぇよ。掛かってこい、キャスターども」

 傷はもうきっと、癒える事はないけれど。

 それでも、お前が生きていてくれるなら、俺の命は無駄じゃなかったと思える。

 ありがとうな、悠。


     *   *   *


 そしてそれから、月日は流れて。

 帆春からの頼みで、悠は詩帆に会う事になった。

 ……正直、どんな顔をしたら良いか分からなくなった。

 季覇から詩帆の話は聞いていた。

 とても優しい、良い子だと。

 そして、分かっていた。

 詩帆はかなりの、"お兄ちゃんっ子"だと。

 そんな彼女の、兄を奪ってしまった。

 そんな自分が、彼女の隣に居て良いのか?

 分からない。

 けれど、それすらも投げ出してしまったら、自分が還ってきた意味がなくなる。

 生きている意味がなくなってしまう。

 それだけは、耐えられなかった。

 季覇が生かしてくれた意味を、無下にはできなかった。

「初めまして。君が、天野宮詩帆ちゃん?」

 出来る限りの自然を装って、精一杯平静を装って、悠は笑みを作った。

 季覇とは、あまり似ていなかった。

 それが、悠には助かった。

 もし二人が似ていたら、詩帆を見る度に季覇を思い出して、きっと、耐えられなかった。

「初めまして、紅月悠さん。兄からお話は伺っていました。お会い出来て嬉しいです」

 それは、六歳の少女から語られる言葉。

 裏表のない、けれど悠には酷く突き刺さる言葉だった。

 だって本当は、『兄』と言うのすら、辛かった筈だから。

 だから自分は、彼女の為に生きようと思った。

 彼女の為だけに生きようと思った。

 それが、唯一の罪滅ぼしになる。

 だから、好きになるつもりなんて、なかったのに。

 愛してはいけないと、思っていた。

 そう、自分自身に言い聞かせていた。


     *   *   *


 言い聞かせていた、のに……。

「ボーッとして、どうかしましたか?」

「ん? ああ、うん……」

 十二年の月日が流れ、隣を見れば、当たり前のように彼女が居る。

 そんな毎日を過ごしながら、過去を思い出して苦笑してしまう。

「? 何ですか、急に。何かありました?」

 怪訝な表情で悠の顔を覗き込む詩帆。

 そんな彼女の隣から、ひょい、ともう一人顔を覗かせた。

「何だぁ、悠。何か悩みごとか?」

「兄様」

 驚いた様子もなく言う詩帆の頭をくしゃっ、と撫でると、季覇は嬉しそうに笑った。

「おー、詩帆。悠どうかしたのか?」

「それが、私にもよく分からないんですよねぇ……」

「ふぅん?」

 二人のやり取りを、やはりぼんやりと眺めながら思った。

 季覇は『詩帆と悠が並んでいるのを見るのは初めてだ』と言った。

 しかしそれは悠も同じだ。

 季覇と詩帆が並んでいるのを見るのは、初めてだった。

 少しの喜びと、罪悪感。

 何故なら二人はこの十二年間ずっと、一緒に居られた筈だったのに……。

「は~るか君。ちょっと良いか?」

「え、何? 季覇」

 季覇に「まぁまぁ」と引っ張られて詩帆から少し離れると、声を潜めて言う。

「どーせお前の事だから、俺等に気ぃ遣ってんだろ? 要らねぇよ。んなの嬉しくねぇ」

「!」

 バレてた。

 十二年会っていなくとも、季覇の洞察力は廃れていないらしい。

「俺も詩帆もお前の事なぁんも責めてねぇし、そもそもそんな理由もねぇよ。変に気負うな。つっても無理だろうけどさ、お前真面目だし?」

「……ごめん」

 小さく溜め息を漏らす声が聞こえて、次いで季覇は言った。

「良いか、悠。俺はお前がちゃんと生きていてくれて嬉しかったよ。投げ出さないでくれてて良かった。……『罪滅ぼし』とか関係なく、詩帆と仲良くしてくれてて良かったよ。マジで」

「……っ」

 本当に、何処まで見抜いているのか……。

「だってほら、俺の可愛い大事な妹をやるなら、やっぱ俺の気に入ってる野郎のが良いじゃん? だったらもう悠しかないだろ?」

「……ふっ。何だよ、それ」

 呆れるような内容を、心底真面目な顔で言う季覇に、悠は思わず吹き出してしまった。

「あ~、ちょっとぉ。何を笑ってるんですかねぇ、悠さん~?」

「あははっ。いや、変わんないなって思ってさ」

「そりゃ変わんねぇだろ。俺からしたら十二年も経ってねぇもん」

「だね」

「もぉ~、ハルちゃんに兄様、お話終わりましたか~?」

 二人で笑い合っていると、少し遠くから詩帆の不満げな声が聞こえてきた。

 頬を膨らませながらも、その表情はとても優しかった。

「うん、待たせてごめんね、詩帆ちゃん」

「あれ? ハルちゃん、もう機嫌直ってます?」

「元々悪くはねぇよ。な?」

「うん」

「??? ……まぁ、それなら良いです。早く行きましょう? きっと皆待ってますよ」

 二人して詩帆に手を引かれながら、苦笑しながら揃って歩いた。

 初めてなんだ。

 こうやって、ちゃんと三人で話すのは。

 二人の空気に、つい泣きそうになったのは秘密だけれど。

 十二年の月日が流れて。

 ようやく、初めて許された気がしたんだ。

 ようやく、二人に出会えた気がしたんだ。

 これからは、共に。

最後までお付き合い下さりありがとうございました。

『相対する鏡界世界』初の番外編は悠視点の過去編でしたが、如何でしたでしょうか?

感想なんか頂けたらなぁ…と、ワガママ言っときます。

何はともあれ、読んで下さりありがとうございました!

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