閑話1. 硬貨と紙幣
「トモちん、トモちん~。そういえばこの人って誰~?」
初ライブから数日後、シャモアちゃん、パステルちゃん、ケイちゃんが私の家に遊びに来た日の事。ケイちゃんにイヌ耳をもふもふされたり抱き着いたりしてソファーの上でじゃれついていたミカンが、たまたま机の上に置かれていた1000円札を手に取って質問してきた。
「うらやましい」
「え?」
「ううん、なんでもない」
おっと本音が。わたしも混ざってじゃれあいたいよ~
「1000円札は野口英世だね。日本の医療関係の有名人だよ」
学校では『苦労して黄熱病のワクチンを発見した人』みたいな感じで教えてもらったけど、実際は黄熱病じゃなくて他の病気のワクチンだったとか、一般的に知られている話とは違った事実や見解があるらしいね。他のお札に書かれている人も詳しい話知らないし、なんとなくすごい人って感じでしか理解してないや。
「向こうのケイリスみたいな人ってことかな~」
「けいりす?」
「ケイちゃんと名前が似てるね~。ケイリスさんはねぇ~。ずっと昔の人で、回復魔法を発明したすごい人なんだよ~」
「すごいすごおい!」
あぶふぅ。ミカン、わたしもそこに混ざって良いかな。
「向こうの世界だと、ズヴェルフ、ジェイル、フリューエル、アクアみたいな人がお金になるのかな~」
「どんなひとたちなの?」
「そうだねぇ~昔々あるところに……」
おっとなんだか面白そうな話がはじまったぞ。と思ったけどケイちゃんはお昼寝の時間帯だったようで、物語の途中で寝ちゃった。後でミカンに聞いたところ、全員伝説として語られている遥か昔の人たちで、ズフェルフは屈強な戦士でドラゴンスレイヤー、ジェイルは新しい職を沢山考案して人々の生活を豊かにした賢王、フリューエルは今も語られる多くの物語を残した吟遊詩人、アクアは荒れ果てた国を一代で美しい水の都へと復興させた伝説の女王だって。
どの話もすごいファンタジーでした。こういう話を聞くと向こうの世界に行ってみたくなるね。
ケイちゃんが寝入ってしまったのでミカンが起こさないようにゆっくり抱きかかえて寝室へと運んで行く。部屋に残されたわたしは、話のきっかけとなった1000円札を手に取った。
「そういえば向こうの世界ではどうやってお金のやりとりしてたのかな。やっぱり銅貨とか銀貨かな」
「はい、そうですよ」
「ってあれ?プラム?居たの?」
「酷いです!ずっといましたよ!」
ごめん、本当に気付いてなかった。漫画読んでるプラムって気配が全く感じられないんだもん。普通に隣のソファーに座ってたんだね。
「ごめんごめん。それで、その銅貨や銀貨ってやっぱり何か細工が彫ってあるの?」
「いえ、貨幣であることが分かるように雑に十字が彫ってあるだけで、細工と呼べるものではないです」
結構味気ないんだなぁ。
「細工が無いと、偽造硬貨が出回っちゃうんじゃない?」
「はい。ですから限られた人しか使えない特殊な魔法を硬貨にかけて、国が発行した正式な物かどうかを見分けられるようになってます」
ん~紙幣の透かしみたいなのを魔法で組み込んでるってことかな。やり方は違うとはいえ、異世界でも偽造防止の考え方は一緒なんだね。
「やっぱり魔法って便利だなぁ。向こうのお金も見てみた~い」
「何言ってるんですか!こっちのお金の異常なまでの細工の美しさに慣れちゃってたら、あっちのお金なんて鉄くずにしか見えませんよ!」
て、鉄くず?
「まず綺麗な円形になってるのがありえない。更に真ん中にも綺麗な円形の穴が開いているのがありえない。あんな小さな金属に精巧な絵が細工されているのがありえない。ギザギザしてたり面白いデザインだったり工夫しているのがありえない。そしてこれら硬貨が量産されているのがありえないんですよ!」
ちょっとプ、プラム?
「そして極めつけは紙幣!こちらの世界の紙の技術が優れていたのは理解していましたが、なんですかあの細部にわたるまで描き込まれた絵柄は!あれ1枚だけで向こうの世界ならどれだけの価値があると思ってるんですか!しかも角度によって浮き出てくる絵とか謎の技術が使われてますし、こっちの世界の貨幣は向こうの魔法なんかよりよっぽどマジカルですよ!」
はぁはぁと息を切らすほどに熱く語ったプラム。どうしちゃったのよ。
でもまぁ紙幣や硬貨がすごいってのはその通りだよね。普段何気なく使ってるからどうしても忘れがちなんだけど。特に紙幣のデザインとか凝ってて一つの作品だと思う。これ自体の芸術性でお金が取れるってのは変な発想じゃないのかもね。
「あらあらうふふ、どうしたのかしら」
「……お金…………………………すごいよね!」
「ふわっ!?シャモアちゃんとパステルちゃんまでいる!?」
シェルフたちと散歩に出かけてたはずなのに、いつの間にか戻ってきてたんだ。突然後ろから声かけないよぅ。しかもパステルちゃんハイテンションモードになっちゃうし、びっくりするんだよぅ。
「パステルさん、分かりますか!」
「うん!分かる!お金ってすごい綺麗だよね!」
「魔法が発動できそうなお札にも見えるでござる」
「え?何々お金~?高級感があるよね~!」
「うふふ、パステルだけじゃなくて私も気になってるわよ」
おおい、シェルフどこから沸いてきた。ミカンもいつの間に戻ってきたんだよ。遅いからケイちゃんと一緒に寝てるのかと思った。というかこの部屋、異世界組が集結してお金について熱く語る変な雰囲気になってるんだけど。
「だから、トモさん」
「「「「「お金頂戴!」」」」」
「……ん?」
んんん?
「じー…………」
「あ、あくまでも芸術的に興味があるからなんです。ほら、この紙のやつなんか綺麗だから欲しいです」
「そ、そうでござる。この大きな硬貨も気になるでござるな。何枚かまとめてコレクションしたいでござる」
「じー……………………」
一人一人じっくりと目を合わせて見つめてみる。
プラム、汗だらだら、×
ミカン、吹けない口笛吹こうとしてる。反応が古い、というか向こうでもこんな誤魔化し方あるのか、×
シェルフ、ポーカーフェイスだけど、指がプルプル震えてる。嘘ついてる時の癖だね、×
シャモアちゃん、普段通りの笑顔。いや、ちょっと楽しんでるっぽい。悪ノリしてるだけかな、×
パステルちゃん、何一つ裏の無さそうな純粋な笑顔、〇
「パステルちゃん、こっちおいで」
「何々~?」
ぎゅぎゅっと軽く抱きしめる。ああ~良い匂いがするんじゃぁ~
「はい、お小遣いあげるね」
「ええ!良いんですか!トモさんだ~いすき!」
今度はパステルちゃんからぎゅってしてくれた!きゃ~かわいー!
「さて、解散解散っと」
「あ、あのトモさん……?」
「なあに」
「い、いえ何でも……」
まったく、欲しいものがあるなら素直に言えば良いのに。
「はぁ、今度からは素直に言いなさい。欲しいものが言いにくいならお小遣い下さいって言えば良いから」
「「「「ごめんなさい(でござる)」」」」
「で、いくら欲しいの?」
「「「「え!!!」」」
「欲しいものがあるんでしょ」
やっぱりわたしはみんなに甘いなぁ。
「「「「トモさん(殿)(ちん)だ~い好き!!!」」」
あぁ、天国はここにあったんだ。
後日。
「ねぇ御影朋。前から気になってたんだけど、お金持ちなの?大きめの家だから多少裕福だとは思ってたけど、これだけの人を突然居候させても問題なくて、高そうな車をさらっと買って、安くはない旅行代金も気にせず出して、儲かりそうなアイドル活動もボランティア。どう考えても単なる裕福ってレベルじゃない気がするんだけど」
「ふひひ、ひ~み~つ」




