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異世界人の友達と日本を旅しよう  作者: マノイ
2章 伊豆下田「結成」
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24. 色の薄い世界 前編

「パステル!珍しいもの見つけたぞ!」


 お父さんは家に帰るとすぐに私のところにやってきて、買ってきた珍しいものを見せてくれる。


「わぁ~見せて見せて~!」


 それは不思議な動きをするおもちゃであったり、見たこともない荘厳な景色が書かれた絵画であったり、使い方の全くわからない変な動きをする魔道具であったり、どれも見ていて楽しくなるものばかりで大好きだった。


 お父さんが帰ってくるのをいつも心待ちにしていて、家の扉が開く時をまだかまだかと心待ちにしていた。お父さんが何も買って帰らないと私が不機嫌になるものだから、お父さんも必死になって珍しいものを探していたんだろうなぁって今になって思う。ごめんね、お父さん。


 お姉ちゃんはお母さんにべったりで家事がどんどん上手くなった。お母さんとの仲の良さにちょっぴり嫉妬して見せつけるようにお父さんにベタベタした時もあったりする。それに気づいたお姉ちゃんもわざとお母さんにくっついて、お互いに仲の良さを見せつけあっていたんだけれど、途中から楽しんでやっていたのにそれが喧嘩しているように見えたらしく、お父さんとお母さんが困っていたのがちょっと面白かった。


 お父さんは国で働く宮廷魔導士。妖精族は体が弱い反面、魔法が得意な種族なので国で重宝されていた。お父さん自身も魔法の研究が大好きで、新しい魔法を考案しては失敗して家族に迷惑をかけてたりする。


 でもお父さんはそんな困ったところだけじゃないんだよ。雨が全く降らないで川の水量が減ってきたある年のこと。私はお父さんに面白いものを見せてあげるって言われて川の上流に連れてこられた。そこでお父さんは空を飛び上空から大量の水を生成して川に流したんだ。しかも水が空間から延々と湧き出てる上に、一定の水量を超えないように調整してるんだって。戻ったら街のみんなにお礼を言われてるお父さんを見て、誇らしく思ったものだ。


 ある時、有名な旅の楽団が街を訪れた。お父さんに連れられて見に行った私は、歌がすごい気に入ってしまい、家に帰ってから何度も歌うようになった。歌うたびにお父さんが喜んでくれるから、ううん、お母さんもお姉ちゃんも喜んでくれるから、それがまた嬉しくて何度も何度も歌っていた。


 新鮮なことの連続で、楽しくて、幸せ。それが私たち一家の日常だった。




 そんな幸せな生活もあの戦争で失われてしまった。お父さんとお母さんは戦争に駆り出され、亡くなった。私は人並みに悲しんで人並みに泣いて、そして気付いてしまった。


 これからどうやって生きて行けばよいのだろう。


 お姉ちゃんは家事ができるから、メイドとして引く手数多だろうし、復興のお手伝いもできる。私はただの珍しいもの好き。お姉ちゃんは私のことを頭が良いって思っているみたいだけど、お父さんが教えてくれた知識を持っているだけ。


 その知識を必要な場面で使うことも、応用することもできない。そもそも今の荒廃した国を復興させるために学者はあまり必要とされていない。少なくともお父さんのように自分の知識や力を必要なことのために振るえる即戦力でないと意味がない。


 このままお姉ちゃんの足を引っ張るだけしか出来ない。そんなの嫌だ。焦りと不安が胸を締め付ける。今日もまた、復興のお手伝いにでかけるお姉ちゃんを不安にさせないように笑顔で見送ることしかできない。


 一人で過ごす家の中にはお父さんが世界各地で買ってきた珍しいものがたくさん並んでいる。あの幸せだった頃はそれを見るだけで楽しい気持ちになっていた。それを見て元気を出そう。そう思って一番好きなおもちゃを眺めた。


 お姉ちゃんが帰ってきた。


「お姉ちゃん……どうしよう……おもちゃ見たら……何にも興味湧かなくなった……」

「え……どういう……こと?」

「分からない……困ったね……」


 反射的にこうは言ったものの、おそらく私は全く困って無かった。単純にこの日この時、楽しい日々が終わったことをようやく実感しただけなんだと思う。そしてこの時を境に、ひたすらはしゃいでただけの自分が普通の自分に戻った。


 そう、今までは楽しいことが多すぎだったからずっとはしゃいでいただけだった。それが普通の自分に戻っただけ。むしろ今のほうが自然で落ち着いている。落ち着けたことで、これからゆっくりと自分の未来のことを考えよう、そう前向きに思えるようになった。


 そういえば、落ち着いて周りを見るとなんとなく物の色がいつもより薄く見えるんだけど、気のせいかな。




 お姉ちゃんが異常なまでに私のことを心配している。問題ないって伝えないと。って思ったけど、お姉ちゃんも私を心配することで辛いことを考えないようにしているようにも見える。自分が冷静になってようやく気付いたよ。私が物静かになったことでお姉ちゃんが頑張れるなら、しばらくは今のまま心配されたままにしてようかな。


 そんなある日のこと。いつも通りお姉ちゃんが炊き出しの手伝いに出かけて、私は家のお掃除をしていた。少しはお姉ちゃんの仕事を楽にさせてあげないとね。下手ながらも頑張って各部屋を綺麗にできたと思う。お姉ちゃん褒めてくれるかな。そんな気持ちで掃除用具を片付けようとしたところ、物置となっている奥の部屋からピシッピシッとひび割れるような音が聞こえてきた。


 なんだろう、強盗にでも入られたかな、それともモンスターが入り込んだかな。怖いよお姉ちゃん。


 そんな私の不安を察したのかタイミングよくお姉ちゃんが帰ってきた。


「お姉ちゃん。家の奥、音が鳴ってる」




 お姉ちゃんと私は家の中に突如現れた亀裂に吸い込まれ、異世界に飛ばされてしまった。そこは、人が乗った鉄の塊が動き、地面は妙に硬く、空気は微かに香りがついていて、読めない文字があちらこちらに書いてある不思議な世界だった。まだ周囲を見て驚いている私の手をお姉ちゃんが引っ張る。観察しながら歩いているうちに徐々に驚きが無くなって不安が押し寄せてきた。


 そんな私の心の内は露知らず、お姉ちゃんは目的地も決めずにどんどんと歩いてゆく。これからどうしようかと私に話しかけてくるけれども、自分自身に問いかけているだけのようで、私の答えは全く聞いてない。私以上の焦りと不安が顔にありありと表れている。心配だ。


 そんなお姉ちゃんは疲れたのか、広場らしきところで座って休憩している。焦燥感にあふれた厳しい顔は見ているこっちも辛くなるほどだ。お姉ちゃんの気分を和らげてあげたい。そうだ、お姉ちゃんも大好きな歌を歌おう。これで少しでも笑顔になってくれたら良いな。


 そして私たちはケイちゃんに出会った。


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