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異世界人の友達と日本を旅しよう  作者: マノイ
1章 富士宮「出会いと再会」
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3. 逃走中、からのお約束

 富士山の裾野に広がる富士宮市には坂が多いけれど、市街地は丁度盆地の底の部分なので比較的坂は少ない。

 けれど、逃げ切って家に帰るには坂をたくさん登らなければならない。

 少しでも早く進んで彼女たちを撒きたいので、坂で時間をロスするわけにはいかない。

 

 というわけで現在、富士宮市街を鋭意逃走中でございます。

 

 

 

 逃げようと決意した後、まずどうやって自転車置き場までたどり着くかが問題だった。境内の入り口から出るには3人組のすぐ脇を通らなければならない。しかも3人はこちらをガン見している上に目が合ってしまった。このまま何事もなく通してくれるとは到底考えられない。


 うん、無理ゲー


 ここは常套手段を使おう。話しかけられたくない場合に最も有効な手段ってなーんだ。

 

 117

 

「あ、もしもし~?」

 

 答え、THE 電話してるフリ。ポイントはちゃんと電話をかけることだ。電源入ってないの気付かれたら、メチャクチャ恥ずかしいからね。

 

 ほら、これで3人はわたしに声をかけることも出来ずに、ってうわっ!脇を通った時に真顔でずっとじーっとこっち見てきて怖い!


 入口を出て自転車置き場についたけど、後ろに着いてきてる気配を感じる。しかもかなり至近距離まで近づかれてるような。これ首筋に息かかってない!?


 怖いいいいいいいいい


 ううー自転車の鍵を開けたらスマホしまって一気に逃げよう。よし、今だ!

 

 ああ、聞こえてくるよ、何かよくわからない言葉を叫んで追いかけてくる声が。


 怖い、怖い、可愛い、怖い。


 と、気になってちょっと振り向いたら犬耳っ娘が猛スピードで追いかけてきていて目が合ってお互いフリーズ。


 やめて、そんなつぶらな瞳で見つめないで!

 抱きしめたくなる!

 でも、でもね、明らかに変なことが起きてるのに、巻き込まれたくないの!


 平穏にニート生活したいの!


 何かわたしに聞きたいことがあるの?困ってるの?

 ああ、すごい困ってる目をしてるよ。

 困っている人がいるから手を差し伸べる、うん、普通普通。

 そうだよ、あんなに可愛い娘なんだから、むしろこっちから話しかけないと!


「ごめんなさいーーーーーー!他の人に助けてもらってくださいーーーーーー!」


 ごめん、今回は無理。無理無理無理。怖すぎるよ、別にわたしは聖人でもなければ物語の主人公でもないんだよ。あんなの(黒いもや)に関わってられないです!


 全身全霊でペダルを漕いで脱出。


 街中なので信号機にすぐに捕まっちゃう。ああもう来るときはあんなに順調で青信号だらけだったのに!

 まるで神様が逃げるなって言ってるかのごとく、赤信号につかまりまくる。チラチラと追いかけてこないか後ろを確認しながらなんとか先へ先へと進む。どこに行こうかな、どこか平日でもそれなりに人が多くて見つかりにくいところ。


「そうだ、イオンだ!」


 浅間さんとは線路を挟んで反対側にある大きなショッピングセンター、イオン。ここなら平日でも主婦の方々が沢山いるはずだ。線路を渡り(やっぱり踏切で止められた)、イオンの駐輪場に自転車を止めると慌てて建物の中へ。

 中に入ると安心して少し冷静になれたのか、自分が激しく息を切らして疲れていることに気が付いた。こんなに運動したの高校の体育の授業以来だなぁ。





「シェーキおひとつでよろしかったでしょうか」


 この店員さんすごい綺麗だなぁ。顔も体も全体のパーツがバランスよく整ってる。


 というわけで、イオン内のフードコードで綺麗な店員さんを眺めながらでシェーキを飲んで一休み。う~ん、この甘さが最高。これからどうしようかなぁ。ウィンドウショッピングでもしようかと思ってたんだけど、そういう気分じゃ無くなったからなぁ。


 それにしてもあの黒いもやは何だったんだろう。見ていてすごい不安な気持ちになった。他の人が見えてなかったってのも不思議。


 これ絶対変なことに巻き込まれてるよなぁ。怖いのやだよぅ……




 フードコートでスマホいじりながらしばらくぼぉ~っと現実逃避していたけれど、1時間近く経ったしそろそろ帰ろうかな。さっさと帰ってお風呂入って嫌なことは忘れて、新しいニート生活の一歩を踏み出そう!


 そう思って席を立った瞬間、またしても目が合った、合ってしまった。


「あ」


 何故、どうして、どうやって。

 そんな疑問が一瞬頭を過ったけれど、即決即断がわたしの得意なこと。

 店の中だけど全力猛ダッシュでその場を離れる。

 ごめんなさい、店の中で走っちゃダメですよ。

 富士宮のイオンでは慣れないと自分がどこから入ってどこにいるのかが分からなくなることがあるちょっとした迷路だ。でも何度も来たことのあるわたしにとっては庭のようなもの。最短ルートで自転車置き場まで駆け抜けて今度こそ完全に撒くんだ!








 撒けませんでした。


 何この犬耳っ娘、足早すぎだよ!

 イオンの裏手、人があまり通らない薄暗い場所の壁際に追い詰められてしまった。血走った眼ではぁはぁ言いながら近寄ってくる犬耳っ娘。


 ひいいぃぃぃ!


 何これ、わたし何されるの!?

 恐怖で心臓がバクバク鳴っているのが聞こえる。犬耳っ娘の鬼気迫る表情に足がすくんで動け……るな。不思議、すっごい怖いのに頭も体も案外冷静で体が動く。ただ、隙を見つけて何とか逃げ出そうにも、犬耳っ娘の足の速さからは逃げられる気がしない。


 というかだよ、こんな怖い表情しちゃあんなに可愛い顔が台無し、って今も結構可愛いな。


 あれ?気迫に飲まれてたけど、怖くない?


 小さな子が無理して相手を怖がらせようとしているような、そんな微笑ましさがある。


 と、怖さも薄れてきたころ、犬耳っ娘の連れが追いついてきた。何語なのか良く分からない言葉で犬耳っ娘に話しかけているけど、これ諫めようとしているのかな。こっちを申し訳なさそうな顔でチラチラ見ている。視線を犬耳っ娘に戻すと、興奮状態はおさまったものの、顔がめちゃくちゃ真っ赤で恥ずかしそうにしてるんだけど、何この可愛い生き物。まさか、興奮して襲い掛かろうとしちゃったのが恥ずかしかったとか!そうなの!そうなの!?


 照れてる姿がかわいすぎるううううううううううう


 不思議な装束を来た可愛い女性に迫られていたという状況を理解し、逆にわたしが興奮状態になりそうだったそのとき、パァンと犬耳っ娘が自分の両頬を叩いて気合を入れた。


 真剣な表情も可愛いなあ。


 犬耳っ娘はわたしに小さく一言投げると、ゆっくりと近づいてくる。目の前まで来ると、今度は犬耳っ娘の両手がわたしの頬をやさしく挟み込む。背の高さがほぼ同じなので、お互いまっすぐ見つめあう形になる。やっぱり可愛……ってうそ!徐々に顔が近づいてくるんだけど!?


 これってまさか、そんななんで!?

 女の子同士だよ?あ、でも女の子同士だからか。

 こんなに可愛いんだからむしろご褒美だよね。

 ニートになると可愛い女の子に迫られるのか、ニートっていいなぁ、ムフフ。


 予期せぬ状況に、明らかに頭がおかしくなっていた。

 正常じゃないよ?ホントだよ、ホントだからね!


 フサフサな垂れ犬耳、素朴で不安げな瞳、プルプルと震える小さなくちびる。

 ゆっくりとゆっくりと近づいて来る。

 自然とわたしは目を閉じた。

 ああ、これがわたしのはじめての、


 コツン


 うん、そんなことだろうとは思ってたよ。

 いくらなんでもいきなり唐突にキスするなんて変質者じゃないって、分かってたんだよ。

 こういうお約束なんだって、うん、分かってたんだよ。

 心の中で涙を流しながら、重なり合った額に犬耳っ娘の熱を感じる。


 と、犬耳っ娘が震える声で一言発した瞬間、わたしの頭から何かが犬耳っ娘へ移ったようなそんな感覚が押し寄せてきた。その感覚が消えるまで数秒程度。

 終わった瞬間犬耳っ娘が頭を押さえて地面をのたうちまわり始めた。言葉にならない叫び声をあげながら苦しむ痛々しい姿を見て一気に現実に引き戻される。

 どうしよう、誰か呼ぶか、いやいやそうじゃなくて救急車呼ばないと。慌ててスマホを取り出したその時、その言葉が聞こえてきた。


 「痛い痛い!痛いよー!」




 え?日本語?


イオンは観光地

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