閑話2. ラーメン
これはお寿司をはじめて食べた日より少しだけ後のお話。
富士宮には行列ができるような人気ラーメン店が無い。有名なチェーン店や昔ながらの中華料理屋とか、お店の数は結構あるんだけど、ここが群を抜いて美味しいよねってラーメン屋が無い気がする。その分色々なラーメン屋をまわって楽しめるとも言えるけどね。
さて、お寿司を無事にクリアした3人娘。こちらより生存競争が激しい世界を生き抜いてきたからか、技術的な文化については乾いたタオルが水を吸うかのごとくどんどん吸収している。何が言いたいかって、かなり早い段階で箸の使い方をマスターしていたってこと。これならラーメンも問題なく食べられそう。
「今日のお昼は」
「寿司でござるか?」
「寿司寿司ー」
「ガリ」
あんたらどんだけ気に入ったのよ。毎回寿司ばかり連れてかないよ。買ってきたガリを速攻で食べつくしたプラムがちょっと危ない目をしているのもあり、寿司からはしばらく距離を取ろうと思ってる。
「残念、今回はラーメンです」
お寿司モード全開だからテンション下がるだろうな。
「ラーメン食べたいー!」
「ついにあのラーメンを食べられる日が来たのですね……」
「ラーメンきたあああああああああああ」
な、なんだこのテンションは。シェルフがなんかこっちをチラチラ見てる。ござるを使ってないってことは意識的に使った何かのネタだな。うーん、良く分かんないけどギルティ。絶対反応してあげない。
「寿司の時も反応良かったけど、これもTVや漫画で見たの?」
「今回は漫画よりもTVです。TVでのラーメン特集がすごい美味しそうに見えるんです」
「食べたことない料理なのにあんなに美味しそうに見えるってすごいよー」
「私も何度めしてろとやらを喰らったでござるか……」
あー確かにラーメンって人が食べてるの見るとすごい美味しそうに見えるよね。あの勢いのある食べ方が、美味しいもの食べてるんだろうなぁって感じがする。ズルズルすする音が嫌いな人もいるみたいだけど、わたしは気にならない。
「でも、タワーみたいになってるラーメンは食べ切れる気がしないでござる」
わたしも魔法の呪文が必要なラーメン屋には行ったことないよ。シェルフに魔法の呪文マシマシだけ覚えさせておこうかな。いつか困ると良い。
「朋殿がゲスい顔をしているでござる」
おっと危ない。
車の中でミカンのイヌ耳をもふる。あー気持ち良いなぁ。毎日丁寧に洗ったから毛並みが整っててフサフサで良い香りがするんだよー
そんな可愛いミカンとイチャイチャしながら向かったラーメン屋は北山にある昔ながらの中華料理屋。やっぱり最初はベーシックなラーメンじゃないとね。ラーメンのベーシックは何かなんて議題だしたら延々と荒れ続けるんだろうけど、やっぱり"昔ながらの"って言いたくなるような醤油ラーメンがベーシックじゃないかな。
お店に入って座席に座り、適当に注文する。3人は外食にも慣れたもので、調味料の小瓶を眺めたり水をチマチマ飲んだりしながらゆっくりと待つ。お昼時だけど平日だからかそこまで混んでないね。近くの工事現場で働いてそうな作業着の人たちと、近所に住んでそうな常連っぽいおばさんたちがいるくらい。隅に置いてある小さなTVではお昼の情報番組が流れている。プラムは目ざとく見つけた入り口に置いてあった漫画を持ってきて読んでいる。うん、田舎のラーメン屋って感じがして良いね。
「おまたせしましたー醤油ラーメンです」
黒いスープの醤油ラーメンが机の上に置かれる。もやしとチャーシュー2枚、刻みネギと海苔が乗っている。
「こうやって間近で見ると、色々な食材が乗っていて豪華な見た目でござる。スープも色々と混ざっていて混沌としているでござるな」
混沌とは、面白い言い方だなぁ。あっさり塩ラーメンとかだと違う反応だったのかな。
「「「いただきます」」」
ズルズルすすって食べてみる。うん、こういう普通のラーメンもたまに食べたくなるんだよね。
「ズルズル~」
ミカンはズルズルと、他の2人はレンゲの上に麺を乗せて食べている。そういえばすするって難しいんだっけか。
「ミカンはラーメン食べるの上手だね」
「ずっと練習してたからー」
「練習?」
「ポテトとかー」
ああ、そういえばファミレス行くとポテト咥えて手を使わずに食べてたな。お行儀悪いって言ったんだけど、あれはすする練習だったのか。
「私たちも、すぐに、すすれるように、なるでござるよ」
「はい、早急に、です」
ああもう食べながら話しないの。そんなに気に入ってもらえたなら、これからいろいろな味のラーメンを楽しんでもらえそうだね。
「麺を口に入れると口の中にすごい重さというか存在感があって、濃い目のスープがその存在に負けじと麺にしっかりと絡み合って口の中が重厚な濃厚感でいっぱいになるでござる。そしてそれを飲み込んでお腹の中に麺がどさっと入ってくる『食べてる』っていう感覚がたまらないでござる。これが生きてる幸せでござるか」
「もやしとかお肉の食感があるから味が単調にならないで美味しいよー。というかこのお肉すごいよー。脂っぽくてとろけるかと思えばちゃんとお肉の歯ごたえや味もあって、こんなお肉はじめてー」
おおっと何か急に語りだしたよ。だったらもっと幸せ感を味わってもらおうじゃないか。
「お待たせしました、単品のチャーハンと餃子です」
3人の動きがピタリと止まる。
「さあ、魔性の組み合わせを試してごらんなさい」
ほほほほ、と冗談めかして3人に追加攻撃。チャーハンは家でも出したことあるけど、ラーメンと組み合わせたら全然違う感覚になるんだぞ。おそるおそるシェルフがチャーハンにレンゲを刺し入れ、それを口に運ぶ。しばらく咀嚼したのち、麺を食べる、スープを飲む、チャーハンを食べる。その勢いは止まらない。つられて他の2人も魔のループに囚われる。
「この世界では料理という魅了魔法が使えるでござるか……」
「ラーメンだけでも味が濃くて重さがあるのに、そこにチャーハンだなんて重すぎて合わないのではと思いました。せっかくふわふわなチャーハンをスープまみれの口の中に入れるなんて勿体ないと思いました。でもなんですかこの組み合わせは。どっちも味が濃いのに決して濃すぎることなく口の中できれいに混ざり合い、それでいて麺と似て非なるライスの重さがお腹にたまるのが心地よいです」
プラムまで壊れた。寿司の時はこんなんじゃなかったのに。餃子食べたらどうなるんだろう。
「これはどうやって食べるでござるか?」
「お寿司の時みたいに醤油皿に醤油垂らして、これにつけて食べるんだよ。好みでお酢やラー油を入れると良いんだけど、最初は醤油だけで良いと思う」
「お酢ですか?」
プラムの目が光った。しまった。
「噛んだら口の中で甘い汁があふれるー美味しー!」
「……」
シェルフが絶句してる。絶句はプラムの役じゃなかったのか。
「正直なところこれ以上重いのは辛いと思っていたのですが、お酢をかけることでさっぱり食べられます。生地とお肉と野菜の重厚感がお酢で中和されてる感じがたまらなく好きです」
そういえばラーメンにお酢入れる人もいるんだっけか。うん、これは教えないでおこう。目が怖い。
「これも、ラーメンに、合うでござる。なんでござるか、この幸福感は。生きてて、良かったでござる」
シェルフ号泣しながら食べてるよ。ちょっとちょっと店の人が変な目でこっちみてる。あ、気にしないでください、大丈夫ですからー
どうやらラーメンチャーハン餃子セットは、無事3人を満足させてくれたようだね。2人ほど混乱してるようだけど。
「お持ち帰りの鳥のから揚げもできました」
「あ、はい、じゃあお会計お願いします」
「「「え……?」」」」
ここの鳥のから揚げも美味しいんだよ。帰ったら食べようっと。まだまだ幸せは終わらせないからね。




