1. プロローグ
夕暮れの校庭の隅。
二人にとってその場所は小さなステージ。
アーティストは一人の少女。
観客はもう一人の少女。
楽しそうに歌い、楽しそうに手拍子をする。
歌が終わると観客の少女は満面の笑みで拍手をする。
「歌が上手でいいなぁ、アイドル目指そうよ!」
「えー無理だよー」
「大丈夫だよ!だってこんなに歌もダンスも上手で可愛いんだもん!」
「えへへ……」
褒められた少女は少し困ったような表情ではにかんだ。
顔がほんのりと赤くなっているように見えるのは夕日によるものだけではないだろう。
「ほめてくれるのはすっごい嬉しいんだけどね。アイドルかぁ……大勢の前で歌うなんてやっぱり恥ずかしいよー」
「アイドルになったところ、見てみたいんだけどなぁ」
これまでに幾度となく繰り返されてきたやりとり。
歌やダンスを褒められた少女はアイドルを目指すことについて満更ではなかったのだが、どうしてか踏ん切りがつかなかった。その理由は「恥ずかしいから」だとずっと思っていたけれども、この時偶然気づいた。
アイドルを目指したくなる条件に。
「じゃあさ……」
そして少しの会話の後、次の歌がはじまる。
しばらく経つと、夕暮れ時の帰宅を促すチャイムが校庭に鳴り響き、少女たちの小さなステージは唐突に終わりを迎える。
まだまだ遊び足りないけれども、今日はここまで。
「また明日」遊べばいい。
明日も明後日もずっとずっと一緒なのだから。
歌が大好きな仲良し少女たちは、明日もまた屈託のない笑顔を浮かべて遊んでいるのだろう。




