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蒸気大革命  作者: あさま勲
二日目
9/50

クーは、手早く着替える。そして、黒眼鏡をかけると、船の食堂へと上がった。

 食堂には、皆、集まっていた。食堂とは言っても、元は船室のひとつ。決して広いわけではない。集まっているのも、クーを入れて三人。これが、この船にいる全員だ。

「坊ちゃん。髪が、ぐしゃぐしゃですよ」

 食堂での第一声が、レイハの、その言葉。クーの髪を染めた、その後片付けは、もう終わらせたらしい。クーが後片付けをやっていたら、たぶん、まだ終わっていない。

 クーは、軽い敗北感を感じつつ、手櫛で髪を整える。

「ああ、そんなんじゃダメですよ……」

 そう言い、レイハは、どこからか櫛を取り出すとクーの髪を整える。思わず憮然とするクー。そんなクーを、剃り上がった頭のゲンザが、ちらりと一瞥する。

「髪ぐらい、自分で……」

「出来てなかったですね」

 クーは言うが、その言葉を、レイハは、そう引き継いで、にこりと笑う。

 こうなると、クーには、事実なだけに反論できない。小さく溜め息をつくと、テーブルにつく。

「いっそ、剃っちまったら如何です?」

「嫌」

「絶対ダメですっ!」

 ゲンザの言葉に、クーとレイハは、同時に、そう言い返した。

 朝食を終え、出かけようと、船を降りるふたりに、レイハは声をかける。

「あの、坊ちゃんの毛染めが、もう無くなりましたので、新しいのを買ってきてくれますか?」

 レイハの言葉に、ゲンザは顔をしかめて、自分の頭をぱちんと叩く。きれいに剃り上げられた頭だ。

「ああ、じゃあ、僕が買っとくよ」

「子供が毛染めなんか買ったら、不審に思われますよ」

 クーの言葉に、ゲンザは、そう言う。無論、剃り上げた頭のゲンザが、毛染めを買っても同様に怪しまれる。買いに行くなら、レイハが妥当だが、万一を考えると船を空けるわけにはいかない。

「ん~……。じゃあ、今日は、出来るだけ早めに戻るから、それから買いに行こう」

 少し考えてから、クーは、そう結論を出す。ダメなら、一日ぐらいは我慢する。その程度のことは、仕方がない。

「統連のこと、わたし、知らないですよ?」

「僕は知ってる。だから大丈夫」

 戸惑ったようなレイハに、クーは、そう答えた。

 レイハは、思わず笑顔になる。

「わかだんな~、はやく帰ってきてくださいね~」

 レイハは、船の上から嬉しそうに手を振って、大きな声で、そう叫んだ。クーは、その声を聞いて、小さく溜め息をついて振り返る。

「ぼくは、だれ?」

 大きな声で問うクー。その言葉を聞いて、レイハは、はっとしたような顔をする。

「申しわけありません。坊ちゃ~ん」

「秘密も、へったくれも、ありませんな……」

 呆れたように言うゲンザ。

「まぁ、この程度なら、問題は無いと思うけどね」

 ゲンザに言葉を返しながら、クーは、さりげない仕草で周囲を見回す。誰も、クーとレイハのやりとりを気にしている様子はない。

「当たり前だけど、ゲンザも気を付けてね」

「無論。もっとも、昨日は失敗しましたがね」

 クーとゲンザは、小声で言葉を交わすと、港の雑踏へ向かって歩き出した。船の上では、まだ、レイハが手を振っていた。

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