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46でそのまま終わらせた方が良かった気がします。
翌朝には、クーの風邪は、すっかり治っていた。
「なるほどねぇ……」
窓から大きく身を乗り出しつつクーは呟く。
真上に浮かぶ教団の浮揚船を見上げているのだ。
昨日は、賢者の塔を覆うよう威圧的に浮かんでいた浮揚船だが、今は屋上に横付けされている。だから、遠くから眺めれば、紐で繋がれた犬のような印象を受けるだろう。
ただ、クーは身を乗り出しているのは、塔の上層部だ。浮揚船は間近で、見上げる視界に収まりきらない。
クーの浮揚船は教団の浮揚船同様、賢者の塔の屋上に横付けされていた。統連中の汽械術師たちが興味を示し殺到したため、慌てて避難させたのだ。
「ソラさんって、高いところ怖くはないの?」
エンナの問いに、クーは窓から身体を引っ込める。
「落ちるのは怖いけど、高さそのものは怖くないかな……」
問われ、クーは答える。
ようするに落ちなければいいのだ。
「ヒスイも高い場所は平気だろ?」
クーはヒスイに話を振る。あと、部屋にいるのはギンで、あわせて四人。総導師がやってくるのを、ここで待っているのだ。
「高いところを怖がっていては、飛行船なんか乗れん……教団の浮揚船だが、本当に二人しか乗ってなかったのか?」
「らしいね。ここに移動させる際に、船内は一通り見て回ったと思うし」
クーは答えるが、ヒスイは納得がいかないようだ。
「二人でも動かせるってのは理解できなくもない。が、あの二人は教団の関係者であったにも関わらず、錬金術師ですら無かったぞ?」
ヒスイは、投降した二人と話をさせて貰ったそうだ。その上での結論だ。まず正しいだろう。
クーは、そう判断するが別段、驚きはない。
「ヒスイって望遠鏡で月を見た事はあるかな?」
「無論あるさ」
ヒスイは即答する。
「じゃあ、月にある街の変化には気づいたかな?」
そこまで見える望遠鏡は出回っていない。自作するしかないが、ヒスイは作ってないはずだ。
「そこまで高倍率の望遠鏡は、覗いた事がないな……」
クーの予想通りの答えだった。
「教団のみならず、ここ統連も月をあまり観測されたくないみたいで望遠鏡の倍率に規制をかけてるんだよ。月には王都以上の大都市があるけど、どうも廃墟みたいだ。倒壊した建物もあるけど、町中なのに放ったらかし」
クーの言葉にヒスイは眉をひそめる。
「つまり、どういう事だ?」
「月には、ほどんど人が住んでないって事だよ。人が少ないって事は、錬金術師は、もっと少ない」
クーの言葉に、ヒスイは納得がいったとでも言いたげに息を吐いた。
「百年前の大混乱は、五十年に及ぶ月との途絶を経て起こりました。その五十年の間に、月の人々の大部分が死に絶えたのでしょう」
ギンがようやく口を開いた。この話は、ギンの方が詳しいらしい。クーも調べてみたが、記録がほとんど見つからなかったのだ。
一部の錬金術師たちが記録をしまい込み、世に出ないようしているのだ。
そして、部屋の扉が開き、シルバを伴った総導師が入ってきた。
「その話、我らが続きを話そう」
シルバの言葉に、クーは溜め息を吐く。
どうやら、この部屋での会話は筒抜けだったようだ。
「禁忌に触れる内容でもある。他言するなとは言わないが、よく考える事だ」
総導師は、そう釘を刺すと話し始めた。
とりあえず完成まで書きましたんで順次あげていきます。
今回と次の話は、完全に説明に重点おいてます。
汽械式浮揚船の位置を修正しました。
賢者の塔は高さ二百メートル。対し汽械式浮揚船は全長二十メートル。
どう考えても屋上に置けるサイズじゃないですね……
塔の屋上は直径十メートルぐらいの広さで、超小型飛行汽の箒なら、なんとか普通に着陸も可能……いや、やっぱり無理っぽいか。




