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なんとか手短に終わらせられないかと頭を悩ませてます。
汗だくになったクーの身体を拭いて着替えさせるレイハを眺める。
慣れているのか手際が良い。エンナには、そこまで手際よくできない……というか、人の看病などした事がないのだ。
クーは、あの直後に風邪でも引いたのか高熱を出した。
雨の中、飛行汽で塔まで駆けつけ、着替えもせず浮揚船に乗り込み空中戦。身体も冷やした事だろう。無理もない。
「どうも再生者ってのは、錬金術の秘術で若返った者の事だと思う。たぶん教団の専売特許で、統連じゃ再現できないんじゃ無いかな」
鼻をグズグズ言わせながらクーは説明する。
「その再生者ってのが、教団の指導者みたいな者なんでしょうか?」
「指導者かどうかは、わかんないけど、特権階級なんだと思う。たぶん……いや、間違いなく腕の立つ錬金術師だよ」
レイハの問いに、クーは答える。そして、エンナに視線を向けた。
「たぶん、美原見の御当主も再生者なんじゃないかな?」
突然、クーに話を振られ、エンナは戸惑ってしまう。
再生者かどうかはわからないが、二百年以上、当主が代替わりしてない事は知っていた。滅多に外部の者と顔を合わさないため、代替わりを隠しているだけだなどとも言われてはいる。
だが、父の話で、当主は不老不死だと聞かされた。そして、父は当主と会った事があるそうだ。だが、当主の姿や性別までは聞かされなかった。
「御当主が不老不死だって話は聞かされてる。だから、たぶん本当の事だと思う」
「俺も聞いた事はあるな。会った事はないが……」
エンナの言葉をヒスイが裏付ける。
賢者の塔。クーが寝かされている部屋に、皆が集まっているのだ。
「御当主も緑の髪をしておられます。ソラ様が再生者であるならば、御当主も再生者なのでしょう」
その言葉で、皆の視線がギンに集まる。
「ギン。お前、当主に会った事あるのかっ!?」
ヒスイが驚くのも無理はない。ギンは元々は統連の錬金術師であり、美原見の人間ではないのだ。
「ヒスイ様の付き人も、御当主の命でやってますからな。年一回は、お会いしてます」
涼しい顔で言うギンに、クーは笑いながら問う。
「ギンさんって、一体、何者なの?」
「月に行きたいだけの、しがない錬金術師ですよ」
どこか楽しげにギンは言う。ここまでギンが感情を見せるのをエンナは初めて見た。
恐らく、これがギンの本心なのだろう。
「教団の浮揚船……見に行きたいんだけどなぁ」
「まずは風邪を治さないと……」
ぼやくクーに、エンナは、そう言う。
薬も処方したので、既に症状には改善が見られている。明日には元気になるはずだ。
教団の浮揚船は、シルバとラセルが抑えたそうだ。今は、人が立ち入れない場所……賢者の塔の屋上に横付けしてある。
「風邪が治り次第、総導師がお会いしたいそうです。ソラ様と錬金術師である我ら三人も立ち会うようにと」
「つまり、俺とレイハは除け者か……」
ゲンザが溜め息混じりにぼやく。
「錬金術師のみにしか話せぬ内容だそうです。ただ、ソラ様は特例だとか」
ギンの言葉に、エンナは考える。
月に関し、公にしたくない話なのだろう。
大口径の望遠鏡で観測すれば、月の地表に都市を見つける事もできる。だが、それは廃墟なのだ。
月の人口は、多く見積もっても千人程度。錬金術師となると数十人しかいないらしい。
錬金術師でなくとも、月を観測できる手段を持つ者なら気づいているかも知れない。ただ、口にしないだけなのだ。
この賢者の塔の導師たちは、恐らく、そうなった理由を知っているのだろう。
やっぱり、エンナが目立ちませんね……
ちなみにエンナ以外は皆、雨に打たれて濡れてたんですが風邪を引いたのはクーだけです。
前回の締めでクシャミを連発させた関係上で、特に深い意味はありません。




