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蒸気大革命  作者: あさま勲
三日目

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43

作中では夜だって事を、よく忘れてます。


2/4 コレ書いた時、ラセルの工房での作戦会議が午前中だって事を完全に忘れてました。

投げた時は薄暗いイメージだったのが、再開時に夜だと脳内変換されたようです。

作中の時間の流れを考えると、昼前後ぐらいでしょうか?

明確に決める必要はありませんが、夜って事は絶対にありませんね。

 賢者の塔は二百メートルを超える高さがあるが、その屋上に降りるのは、小型飛行汽である箒であっても難しい。

 そもそも滑走路として使えるような広さがないのだ。

 だから落とすしかない。

 上昇する事で速度を殺し、塔の屋上で上手く速度をゼロにできれば、機体を壊さず塔へ落とせるだろう。

 この際、機体が壊れようと大怪我をしようと、意識を保ち話ができる状態でさえあればクーの最低限の目的は果たせるのだ。

 痛い思いをするのは御免被りたいところだが、今の機会を逃せば一生後悔する。だからクーは覚悟を決めた。

 屋上の者たちの表情が解る程まで近づき、塔の上を旋回する。これで、屋上の者たちに、クーの存在を知らしめる事ができたはずだ。

 そして、屋上を指さし、そこに降りると意思表示をする。

 屋上の錬金術師たちは、一様に驚いた表情を浮かべ、こちらを見つめていた。

 クーは妙な違和感を感じた。

 彼らは気づくと同時に、大空を飛び回る浮揚船以上の興味をクーに示したのだ。塔の上に降りると意思表示をしたため、彼らは驚いたわけではない。そもそも、塔の上に降りるというハンドサインを、錬金術師である彼らの大部分が理解できたとは思えない。

 だが構わない。いや、正しくは考えている余裕などない。

 視線が自分に集まっているなら、機動から塔の上に降りると気づくはずだ。仮に気づかなくとも、目で追ってさえいれば落下地点から逃げるぐらいの事はできる。

 いったん上昇し塔から距離を取る。そして塔の上層に向けて急降下を始めた。途中で機関を停止し、惰性のみで急上昇に転ずる。

 以前の身体では、重すぎて箒を上手く扱えなかったが、今の小さな身体になってからは上手く扱えるようになった。だから、乗りこなすのが楽しくて、さんざん飛び回ったのだ。

 この箒の扱いに関してのみなら、クーはレイハ以上だ。紙一重を狙った飛行だって当然できるのだ。

 屋上の縁を掠めたところで勢いが止まる。そして翼が揚力を失った。

 周りから、慌てたように錬金術師たちが散ってゆく。

 屋上の床までの高さは二メートル。もっと低くもできたが、クーが狙ったとおりの高さだ。

 身体を捻り、箒の機関部を頭上へと持ち上げる。機関部は丈夫なミスリル製だがプロペラは木製だ。機関部から落下したら、簡単に壊れてしまう。

 箒を壊さないよう抱え直すためにも、この二メートルの高さが必要なのだ。

 そして箒を抱えた状態で、クーは足から着地する。

 膝を使って衝撃を吸収し、そしてバランスを崩して尻餅をついた。

 格好悪い……。

 クーは心の中で、そう愚痴った。

 錬金術師たちは、遠巻きにクーを見つめるだけで、誰も一言も発しない。

「えっと……」

 思わずクーは、言葉に詰まる。

 罵倒されるか、質問攻めか、どちらかに転ぶと思っていたのだ。

 屋上の錬金術師たちは、みな老人だった。比較的若い者でも、初老といえる年齢だ。

 その初老の錬金術師が一歩前へと踏み出した。

「再生者が、なぜ汽械に乗って塔へと?」

 再生者。クーの知らない言葉だが、その意味は直感的に理解できた。

 恐らく緑の髪と青い瞳が、その再生者の証なのだろう。皆がクーを見て驚いたのも、一目で再生者と断じたのも、そう言った目立つ特徴があるためだろう。

 再生者とは、恐らく錬金術の秘技を用いて、身体を作り直した者の事なのだ。そして、その秘技は、教団の専売特許なのだとも。

 その証拠に、ここには若者といえる歳の者はいない。緑の髪の者もいない。

 クーは、即座にそこまで判断し、今の状況を考える。

「汽械術と錬金術が、共に手を取り合う時代が来たと。それを告げに来ました」

 クーは、そう言いながら、汽械式浮揚船を指さした。

「昨日のラセルの昇宙汽械。それにカーボライトを組み合わせた物だな?」

 その問いを聞いて、クーは全てが報われた思いを感じた。ここ統連の、高位の錬金術師が、蒸気推進器に興味を持ったのだと。

 そして、その問いを発した錬金術師と面識があった事をクーは思い出した。

「シルバ師、ですね。エンナの、お師匠の」

 この身体になる前、飛行汽や飛行船など、飛行汽械について説明した事があった。

「エンナの知り合いで汽械術の知識があり、そしてワシと面識がある者。となれば、小石川ソラ……か」

 シルバも憶えてくれていたようだ。

「今は、クーと名乗ってます。エンナを迎えにあがりました」

 クーの言葉で、ようやく周囲がざわめき出す。

「あの娘は、教団に刃向かったのだぞ?」

「だからといって、言いなりになるのか?」

 そう言った声を聞いて、クーは安堵を深める。

 教団を恐れてはいながらも、ここの錬金術師たちは、教団に従うのを良しとはしていないのだ。

「あれは、月に行けるのか?」

 シルバは、統連上空を飛ぶ汽械式浮揚船に視線を向けつつ問う。他の錬金術師たちの心配など、興味はないようだ。

「十分な量の高純度水晶があれば、今すぐにでも行けますが……本音を言えば、試験が不十分なので、もう少し試験と改良を重ねたいところですね」

 汽械式浮揚船は、教団の浮揚船を掠めるように飛び、十分距離を取ったところでカーボライト制御で反転。そして、再度、教団の浮揚船を掠めるといった機動を繰り返している。

 そうやって、徐々に、相手を洋上へと誘導しているのだ。

「ラセルの資料に寄れば、蒸気を噴出し、その反動で進んでいるらしいな。と言う事は、いつまでも、あの動きができるわけではない、と」

 汽械は燃料と水に依存する。いずれかが無くなれば汽械は動かない。それは汽械式浮揚船とて同じだ。

「カーボライトを使わなくとも、蒸気推進のみで月に辿り着く事はできます!」

 気が付くと、クーは、そう叫んでいた。

「ラセルの資料の説明には、十分な説得力があった。疑ってなどおらんよ。時間に余裕がないと言う事を確認したかっただけだ……あれは、お前が関わっているのだな?」

 どこか楽しげにシルバは問う。

「父の代から研究を始め、僕とゲンザで形にしました」

 クーの言葉を聞き、シルバは、ざわめく錬金術師たちに向き直って、大きな声で宣言する。

「我ら錬金術師、その子らが、百年の月日を経て月への道を開いてくれたぞ!」

 シルバの言葉に、錬金術師たちは静まりかえった。

 汽械術は、そもそもは錬金術の派生だった。それはクーも知っている。

 修行過程で脱落し、生半可な知識しか持たないような者たちが、統連で火薬を扱うようになったのが始まりだ。

 火薬は武器となり、それを有効利用する手段として銃や大砲が作られるようになった。多くの錬金術の技が失われた大混乱直後の統連は、武器の一大生産地だったのだ。

 大混乱収束後、月の錬金術師集団を名乗る、環の教団は、そんな統連を問題視し、統連から武器を扱う錬金術師たちを追放しようと行動、反発を受け鎮圧のために浮揚船を差し向けた。

 それが百年前の、統連と教団の戦いだった。

 統連は教団の浮揚船を退けはしたものの、月で産出される錬金術に必要な数々の素材を絶たれ、後に教団の要求を呑んだ。

 その要求が、武器産業を大幅に縮小する事だった。元々、統連の錬金術師たちも武器産業には好意的ではなかったのだ。そして、武器を扱う錬金術師たちは、教団の浮揚船と賢者の塔の力を目の当たりにし、教団、そして統連高位の錬金術師たちには従わざるを得ないと悟ったのだ。

 武器を扱う者たちの大半が統連を去ったが、一部は統連に残り独自の研究を重ね蒸気機関を開発。それが汽械術の興りである。

 未だ一部の錬金術師が汽械術師を蔑視するのは、発端が半人前の錬金術師たちであり、人殺しのための武器作りに手を染めていた事に起因するためだ。

 だが、シルバは、汽械術師を錬金術師の子と呼んでくれた。

「あれで月に行けるのか?」

「行けます。蒸気推進器とカーボライトを組み合わせれば、月は手の届く場所です。だから、月への交通手段を独占したい教団が、その芽を摘むために浮揚船を差し向けてきたんです」

 問いに対しクーは答えるが、全ての錬金術師たちが納得しているわけではない事は理解できた。

「その言葉、信じよう」

 クーを取り巻く錬金術師たち、その遙か後ろから声が響く。

 錬金術師たちは、驚いたように道をあけた。その先には、宙に浮かぶ椅子に座った老人がいた。

 あの椅子にはカーボライトが使われているのだろう。そんな物を使える立場だ。この場にいる錬金術師たちよりも、更に格上のはずだ。

「総導師……」

 その言葉が、クーの予想を裏付ける。

 導師とは統連にて多くの弟子を抱える錬金術師に与えられる称号であり、総導師は、その導師を統べる立場にある錬金術師。いわば賢者の塔の最高責任者である。

「お主が再生者であると言う事は、美原見の当主も関わっておるな……」

 クーには、そこまでは解らないが、ギンの言葉を信じるなら、そうなのだろう。

 美原見の家は、不老長寿や医療を得意とする錬金術師の一派である。そんな中で、金属精錬に手を出したヒスイは変わり種だった。

「どうも、そうらしいですね。あの家の使いの者に、それらしい事は言われました……」

 確証は持てないので、クーは、あえて言葉を濁した。

 そんなクーに、総導師は楽しげに笑う。

「今回の一件がなくとも、いずれは教団と事を構える事になっただろう。そのためには、統連が団結せねばならぬ。結束のためにも、汽械に頼る浮揚船が、教団の浮揚船に劣らぬ事を示してみせよ」

 総導師は結束のためにも、汽械式浮揚船で教団の浮揚船に勝ってみせろと言っているのだ。

「今の動きでは、足りませんか?」

「足らぬか足りるか。それは見た者がそれぞれ異なる結論を出すだろう」

 総導師の言葉に、クーは溜め息混じりの笑みを浮かべる。

 要するに期待はしているが、積極的に協力する気はない。そういう事なのだろう。だが、それで十分だ。

 汽械式浮揚船は、教団の浮揚船に対し直線的な動きで接近、離脱。そしてカーボライト制御により反転。そして再度、接近、離脱といった動きを繰り返している。

 二人だけでは、あの動きが精一杯だろう。レイハとゲンザは、クーの期待以上に、良くやってくれていた。

 だが、今のところ教団の浮揚船に勝っていると証明できたのは加速性能ぐらいだ。

「間もなく、汽械式浮揚船が僕を迎えに来ます。僕が浮揚船に乗れば、三人で船を操れますから、汽械式浮揚船の機動性は更に上げられます。教団の浮揚船に負けないって事を証明してみせますよ。……でも、その前に、エンナに会わせてください」

 そもそも、ここにはエンナを迎えに来たのだ。

 浮揚船と空戦をする手前、エンナを乗せるわけにはいかない。だが、話ぐらいはしておきたい。

「教団の使いに噛み付いた、あの娘か……連れてきなさい」

 噛み付いた、か。

 クーは声に出さず呟いた。

 恐らく、ソラが殺された理由と蒸気推進器との関連を教団に問うたのだろう。

 だとすれば、ソラの死を悲しみ、怒ってくれたのだ。

 さて、何と説明しようか?

 そんな事を考えつつ、クーは天を仰いだ。

錬金術の秘薬を使ってソラは一命を取り留めたが、副作用で子供の姿のクーになった。

コレは書き始めた当時から決めていた設定ですが書き進めている内に、この設定は錬金術における不老長寿の技に繋がるんじゃあるまいかと思い、今回の設定ができました。

書いてる途中で頭からよく消えてますが、クーの緑の髪も青い瞳も今回の設定のための小道具ってワケじゃないです。

そもそも、何でこんな髪と目の色にしたのか、今の自分はキレイに忘れてますね。

レイハやゲンザは良い感じにキャラが固まってきました。

予想外に良い方向に固まってくれたのがヒスイで、披露の機会がないのに設定が色々付け足されたのがギンです。

この二人、当初の予定ではチョイ役でした。

対し、主人公のクーと、ヒロインのエンナは今ひとつ設定が固まってません。

この期に及んで困った物ですね。


この前書きと後書き、推敲の際の覚え書きとして便利かも、とか思ってます。

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